展覧会遠征 新見・三次・広島編

 

 「待ちに待ってた切符が出たぜ!ここはおまかせ、青春18切符」というわけで、今年も冬の青春18切符のシーズンがめぐってきた。今年は春以降のガソリン価格高騰により、私の遠征も車によるものが極端に制限されている。その結果、どうしても中距離遠征はこのシーズンに持ってくるしかなくなるのである。ここはやはり少し遠くに足を伸ばしたいところである。

 さて、鉄道での遠征を考えた場合、私の行動圏から行けば西は大体広島辺り、東は大体名古屋辺りというところである。で、牡蠣とひつまぶしのどちらを食べたいかを考えると必然的に牡蠣に・・・というのが理由ではないのだが、とりあえずは広島遠征を実施することとした。なお誤解のないように言っておくが、これはあくまで展覧会のスケジュールをにらんでのことである。私の遠征はあくまで展覧会がメインなのである。

 ただ、山陽本線で広島に直行するというのはあまりに面白みにかけるといわざるを得ない。山陽本線や東海道本線と言ったメジャー路線はどうも心躍るものがないのである。で、思案した結果、新見と三次を経由して広島に至るルートが浮上することとなった。もっともこのルートが浮上したのは、何もローカル線に乗ると言うことが目的ではない。あくまで新見と三次で行われている展覧会に立ち寄るのが目的である。こうして例によっての青春18ローカル線の旅の始まりである。

 まずは新見への移動である。山陽本線で姫路に移動、姫路発の新見行きの普通に乗り換える・・・のだが、駅内の電光表示板を見ても「新見行き」という表示がどこにもない。本来新見行きが出るはずの時間には「岡山行き」と書いた列車が存在するのみ。頭の中が疑問符で一杯になる。もしかして伯備線でトラブルでもあったかと思ったが、朝出発前にネットで確認した時にはそのような情報はなかったし、そもそもそんなことがあれば駅内に表示やアナウンスがありそうなものである。やがて車体に「岡山行き」とのみ書いた車両がホームに入ってくる。どうせ普通列車だし、どっちにしろ岡山には行く必要があったのでとりあえずその列車に乗る。

 列車は大きく迂回して山の中を走る。新幹線だと20分程度で通り抜ける姫路−岡山間だが、在来線は大きく迂回する上に各駅停車しかないので、1時間半もかかるのである。本数は少ないし時間もかかるということで、姫路−岡山間は青春18ユーザーからは難所として悪名が高い。特に姫路までを新幹線とタイマンをはれると言われている超高速列車の新快速を利用した直後だけに、そのあまりのギャップに乗客は目眩を起こすという。もし赤穂線がJRでなく競合私鉄だったとしたら、この区間の状況も変わったかもしれないのだが・・

 えっちらおっちらと山の中を抜けた列車はようやく岡山駅に到着する。到着直前に車内アナウンスが流れる。「この列車は岡山駅を通過後、倉敷から伯備線を経由して新見に到着します。」先ほどまで車内アナウンスでも「この列車は岡山行きです」としか流れていなかったのだが、ここに来てようやく真の目的地が明らかになる次第。この列車はシークレット列車か? なぜこんなわかりにくいことをするのかは、鉄道マニアではない私には全く分からない。

 倉敷で多くの乗客が降りて伯備線に入ると、車窓の風景がそれまでの市街地から一変して突然に山の中になる。列車はそのまま井原鉄道との乗換駅である清音、吉備線との接続駅である総社を過ぎる。ポカンと車窓から外を眺めている私は、これらのどちらの線も乗ったことがないことを思い出す。いずれは乗ってみようか・・・ちなみに誤解のないように言っておくが、私は鉄道マニアではない。やがて列車は備中高梁に到着、ここで大半の乗客が降りて車内はガラガラになる。この頃になるとあたりは完全に深い山の中である。

 総社駅にて井原鉄道の車両

 沿線の山はまばらに紅葉している。いろいろな木が混ざっている雑木林では、紅葉する木、既に落葉している木などが入り混じっているのである。京都の紅葉の名所のような山全体が真っ赤になるような風景も悪くないが、私はこういう自然な風景に美を感じるタイプである。私がこのような風景に美を感じるのは、まさに東山魁夷の名画を見るような感覚を受けるからであるだろう。

 日本の原風景

 ただ山によってはところどころ部分的に杉が密集している地域があり、まるで緑のパッチワークのようになっているのが気になる。多分戦後に植林した地域なのだろう。こういう人工的な森林はやはりどうしても醜い。秋になるとこれらの人工針葉樹林は紅葉をしないため、もろに辺りの風景から浮いてしまうのである。それとこういう地域を旅すると、山の奥まで立っている電柱と鉄塔はやはり美しくない。

 こういうパッチワークは醜い

 ようやく列車は新見に到着する。ここでとりあえず2時間をつぶす予定である。まずは新見美術館を目指す。新見美術館は小さな美術館だが、なぜか私の感性とマッチするので今まで何度も訪問している。しかし実は列車で訪れるのはこれが初めてである。狭い地下道を通って線路の向こう側に渡ると、そこの斜面に美術館が建っている。所要時間は10分弱、新見を訪れるなら乗り換えの合間にでも訪れることは可能である。

新見駅

 

美術館への怪しい地下通路        地下通路を抜けた先に美術館が


「コレクション展1 新収蔵品展」新見美術館で2/17まで

 この美術館が新たに収蔵した作品などを集めて展示した展覧会。この美術館の目玉でもある富岡鉄斎の作品なども含まれる。小規模ではあるものの、展示品に竹内栖鳳や平山郁夫の作品なども含まれており興味深かった。

 その他で印象に残った作品は、岩絵の具の群青色の空が映える村居正之の「エギナの夏」、写実的に描かれた女性と曼荼羅的世界の組み合わせが強烈なインパクトを与える石田宗之の「云何遊比娑婆世界」、そして鮮やかで強い色彩が印象に残る難波滋の「哀華逍遙」。いずれの画家も私にとっては初めての名前であるのだが、強く興味を感じた。


 美術館を出たときには11時過ぎになっていた。今日の昼食は新見で摂る予定にしている。駅前に戻ると調べておいた食堂に入る。

 今回、昼食を摂ったのは伯備食堂。新見名物といういのしし肉を扱っている会社が経営している食堂である。まず注文したのはスタミナ定食1600円。

 

いわゆる普通の焼肉定食          しかしこれがイノシシの肉

 この定食であるが変わっているのは焼肉がいのしし肉であること。一見牛肉のようであるが、食べてみると確かにいのししの肉である。面白くはあるのだが、いのししの脂身を食べる牡丹鍋と違い、赤身が主体であるためにやや肉が硬いという難点がある。それと焼肉のたれを使用するといのししの個性が抑えられるために、あえていのししを使用している意味が薄まる。確かによく言われるいのしし固有の臭みはないのだが・・・。

 さらについでに新見名物として売り出し中といういのししラーメン(850円)も注文してみた。

 

  普通の醤油ラーメン        これがイノシシチャーシュー

 内容はごく普通のラーメン。チャーシューが豚ではなくいのししであるのが特徴。ただいのしし肉は豚肉より脂が少なくて淡白であることを考えると、チャーシューにするのはいささか疑問。実際に固めのややパサついたチャーシューという印象で、いのししの強みが今ひとつ出ていない。

 いずれのメニューもいのししの臭みは感じなかったことから、多分扱っているいのしし肉自体は質が良いのだろう。ただどちらのメニューにも共通して言えることだが、いのしし独自の魅力が活かせているとは感じられない。もう少し工夫が必要だろう。残念ながら牡丹鍋に代わるいのししの食べ方の提案まではまだ到達していないようである。

 

 新見で昼食を摂った後、次の目的地である三次に移動することにする。ここからの移動は芸備線を使うことにする。この路線を使用すると三次に直行できる。ただ難点は芸備線の特に新見−備後落合間は1日に3往復(朝、昼、夕)という超閑散路線であるということ。実はおかげで乗り換え待ちに2時間も待たされることになったのである。

 ようやく列車がホームに到着する。一両編成のディーゼルカー。伯備線の4両編成の電車に比較するとさびしい限りだが、姫新線などローカル線ではよく見かける車両である。超閑散路線の割には乗客は意外とおり、特に学生が多い。列車は走ってくる学生が全員乗り込んだことを確認してから発車する。

 備中神代で伯備線から別れると、いよいよ芸備線である。沿線は山間ののどかな風景。ただ姫新線とも共通しているのだが、とにかく列車が遅い。特に急カーブではほとんど止まるのではないかと思うぐらい速度を落とすので、自動車どころか自転車にも追い越されそうなイメージである。この辺りがバスとの競争で敗北してしまう理由だろう。特に中国道が開通して高速バスが増えた現在では、この路線も廃線は時間の問題だろうか。ただ利用者には老人などもいるようなので何とか対策を考えたいところであるのだが・・・。

 東城を過ぎた頃には乗客は数人になる。やがて乗換駅である備後落合に列車は到着する。芸備線と木次線の乗り換え拠点の駅のはずだが、山間のなにもない駅である。駅に到着した途端、乗客全員がカバンからカメラを取り出すと、列車や駅の写真をバチバチと撮り始める。どうやらここまで乗車していた乗客は私を除いて全員がいわゆる鉄道マニアであったようである。いかん、これではまるで私まで鉄道マニアのようだ。そして彼らマニアの2/3ほどは木次線というよりマニア度の高い路線に乗り換えていった。私はここで芸備線の三次行き列車に乗り換えると三次を目指す。

 

右がここまで乗ってきた車両、左に乗り換え   強者の方々は木次線の方へ乗り換え  

 このあたりに来ると雪をかぶっている山もある。寒さが身に染みる。今回は山間経由ということで完全防寒で臨んだのだが、それが正解だったようである。途中では先ほどまでぱらついていた雨も上がり、快適でかつ退屈な山間旅行が続く。そういえば沿線の風景を見ていて気づいたのだが、この沿線は伯備線沿線に比較して明らかに人工林が多い。多分先の大戦で、このあたりの山は悲惨な光景になっていたのだろうと思いを馳せる。途中で福塩線の合流駅である塩町を過ぎ(この福塩線も私が乗ったことがないローカル線である)、ようやく列車は三次に到着する。ちなみに三次からは三江線というこれまたマニア度が特Aクラスのローカル線が出ているのだが、鉄道マニアでない私はこれに乗ることはないだろう。

 ここまでは山間の集落のような光景しかなかったが、三次は一応は都会的雰囲気がある。三次駅前に出るとバス停へ。私を待っていたかのように美術館行きのバスが到着する。そのままバスは貸し切り状態で美術館へと到着する。


「三上巴峡展」奥田元宋・小由女美術館で1/27まで

 三上巴峡は三次に産まれ、児玉希望に師事した日本画家である。本展ではその三上巴峡の作品を初期から晩期に至るまで展示している。

 初期の頃はオーソドックスで端正な日本画を描いていたようだが、昭和30年頃から画風が変化している。ちょうどこの頃は日本画の世界で従来の伝統を見直す機運が盛り上がっており、児玉希望なども突然に抽象画を描いたりしていた頃である。彼もその師匠の影響を受けたのかどうかは定かではないが、この頃を境により力強い荒々しいタッチの作品が登場している。

 ただ彼の場合、師匠の児玉希望よりは保守的だったのか、抽象画などの極端に走るわけではなく、あくまで具象の世界にとどまっており、しかもさらに晩期に向かうに連れて昔に戻っていった風さえもうかがえる。馴染みやすい画家ではあるのだが、芸術家としてのインパクトにはやや欠けるきらいがあるように感じられた。


 帰りのバスも乗客は私一人の貸しきり状態だった。この路線は三次市の病院やワイナリーなどもあるために本数を維持しているのだろうが、この様子では間違いなく赤字路線である。これはいずれバスの減便がありそうな嫌な予感がする。こうやって地方はドンドンと不便になっていくのだろう。人口が減少→交通機関などが減便される→不便になり人口が減少する 地方が衰退していく負のスパイラルであり、悲しい限りである。やはり東京の解体と第一次産業の再生を急がないといけない。

 三次駅に戻ると、広島行きの二両編成のディーゼル車に乗り込む。ここからもやはり沿線風景がのどかなのは相変わらず。しかしやがて日が暮れると、車内の光景は広島に近づくにつれて変化していき、広島に到着する頃には通勤列車のような風景に。どうやら芸備線沿線も広島に近い地域ではベッドタウン化しているのだろう。これは姫新線や播但線でもあった光景である。

 広島に到着するととりあえずホテルに向かう。私が今回の宿に定めたのはアークホテル広島。宿泊費が安くて大浴場があるホテルということで選択したホテルである(例によって楽天トラベルで「価格の安い順」表示で選択している)。部屋はやや狭くて、設備にも若干の古さを感じさせるが、私が泊まる安ホテルでは標準的なところ。照明が私の好みより暗いが、これもビジネスホテルとしては標準だろう。

 部屋に荷物を置いて一息つくと、今夜の夕食先を確保するべく電話で連絡を取る。広島に来たからには当然であるが牡蠣を食べるつもりである。しかし最初に連絡を取った店は既に今日は予約で一杯とのこと。そこで次の店に連絡を取るが、当初に予定していた7時からでは空きが出ないとのことで、8時に店を訪れることにして予約を入れる。どうやらこの時期の広島には、全国から牡蠣マニアが殺到しているようである。先週の日生の混雑ぶりといい、牡蠣には何やら怪しい魔力があるのだろうか。

 7時半頃までテレビを見て時間をつぶすと、広島の繁華街地域まで散歩がてらに歩いていく。広島を訪れるのはこれで5回目ぐらい、一泊するのも2回目である。おかげでもう既に「馴染みのある街」という感覚がある。広島の雑多な繁華街は「ガラが悪い」と嫌う人も多いようだが、そもそも神戸の長田というお上品とはほど遠い地域で生まれ育った私の場合、こういう街並みの方がしっくり来るのである。

 今回夕食を摂ることにしたのは「和丸」。春の広島遠征でここを訪れ、それが私が牡蠣にはまる原因となったといういわくの店である。今回注文したのもやはり「カキづくしコース」6000円である。

 まずはオーソドックスに酢ガキから。新鮮な牡蠣が心地よい。決して生牡蠣は好きとは言えない私だが、ここのはさわやかに頂ける。これに続くのは牡蠣のサーモン包み。これは前回にはなかった新メニューである。意外にサーモンが牡蠣と合う。

 

   酢ガキ               カキのサーモン巻き

 次に登場するのは、この春に私を魅了した絶品の焼きガキ。どうしてこんなにうまいのだろうかとため息が出るぐらい牡蠣の味が濃厚で思わずうっとりする。さらにオーソドックスに牡蠣の土手鍋、そしてこれまた絶品の牡蠣フライ。さらには牡蠣のタタキと続くその名の通りの牡蠣づくしである。そして最後を閉めるのは先ほどの土手鍋の出汁を使用した雑炊。この頃には完全に満腹である。

 

  殻付焼きガキ            中からは肉厚の身が

 

カキの土手鍋

 

絶品のカキフライ           カキのタタキ  

締めは雑炊で

 この夜はこうして更けていった。この春に私を魅了したあの牡蠣料理は健在であった。なおこの店、料理については文句はないのだが、唯一の難点は分煙していないこと(店が狭いので仕方ないのだろうが)。さすがに隣の席で臭いタバコを吸われた時には一瞬殺意が頭をよぎってしまった。これだけの料理を食べながら、あんな臭いタバコを吸える喫煙者の感覚だけは私には永久に理解不能である。

 牡蠣料理を堪能した後はホテルに戻り、最上階の展望風呂でゆっくりと疲れを癒す。今日は朝から丸半日列車に乗り続けだったのでかなり疲れがたまっている。その疲れも広い風呂に浸かっているとじんわりと和らいでいくような気がする。。やはり大浴場付のホテルを選んだのは正解であった。

 部屋に戻ると後はまったりである。こんな時に紀の善の抹茶ババロアがあったらな・・・なんて思うが、それは叶わぬ夢。やむなく、コンビニで調達したシュークリームをぱくつく、そしてこの夜はNHK教育の「サイエンスZERO」を見ているうちに知らない間に寝込んでしまったのであった。

 

 翌朝は7時に起床すると「所さんの目がテン」を見ながら着替え、まず朝風呂を一風呂浴びてから朝食へと出かける。朝食はバイキング形式で結構たっぷりと食べられる。これも実は私好み。

 ホテルをチェックアウトしたのは9時頃。路面電車を乗り継いで目的地に向かう。実はこここそが今回の遠征の第一目的地なのである。


「平山郁夫 祈りの旅路」広島県立美術館で12/24まで

 平山郁夫は一連のシルクロードを描いた作品などで知られているが、本展ではそれよりも先立つ仏教を題材にしたシリーズから始まり、有名なシルクロードシリーズ、そして最近の作品である戦争を題材にした作品などに至る彼の創作をたどれるようになっている。

 初期の仏教のシリーズは、幻想的な雰囲気が特徴的であるが、個人的好みとしては今一つ。やはり一番面白くなってくるのはシルクロードシリーズ以降である。特に彼の描くシルクロードの遺跡の風景は、静けさと寂しさが漂っており、栄枯盛衰とか諸行無常と言った日本人的情緒に訴えるところを感じさせる。なお本展に展示されているのはことごとく本画の大作ばかりであるので、まさにパノラマ的風景が展開される。

 晩年の戦争をテーマにした一連のシリーズは、特に業火の広島を描いた作品が印象的。彼自身が被爆体験を持っていることから、広島を描くのには並々ならぬ決意が必要だったとのことだが、彼の作品は戦争の惨状を声高に生々しく訴えるのではなく、芸術的に昇華した形で平和の貴さを問いかける形になっている。この辺りは彼の芸術的スタンスの反映だろうと思われる。

 本展を一回りして感じたのは、やはり彼は技巧で圧倒するタイプの画家ではなく、題材と構成のうまさで魅せる画家だと言うこと。各作品において、構成にかなり工夫が見られており、それが劇的効果を呼んでいる。その効果は大型の作品ほど顕著であるので、本展のように大型作品を集めた展覧会では最も有効に機能しているようである。正直に言うと、彼は決して私の好みのタイプの画家ではないのだが、それでも本展は十分に面白いと感じさせられたのである


 じっくり見て回ったせいか、路面電車で広島駅に戻った時には昼前になっていた。当初の予定ではもう一カ所回ることも考えていたが、やはり昨日の疲れが若干身体に残っている。今から比治山登山をする気にもならず、予定よりは大分早いのであるが、昼食を食べて帰ることにする。あまり無理をしすぎて翌日の仕事に障ってもいけない。

 昼食は駅の手前のビルにあるお好み焼屋が集まっている一角で摂ることにする。ここには広島焼きの店が数軒並んでいるのだが、どうも明暗がハッキリしているようで、特定の店に客が集中している。客が集まる店はそのことがさらに客を呼び、客のいない店はそのことが次の客を遠ざけるという連鎖で勝ち組と負け組がハッキリしてしまっている。どうもこんなところまで格差社会になってしまっているようだ。

 一度広島焼きを食べておかないと感じていた私だが、実は今回は全く何の調査もしていない。そこでどの店に入ろうかとウロウロしていたのだが、一回りして戻ってきたら、さっきまで多くの行列が出来ていた店にたまたま空きが出来ていたので、そこに入ることにする。

 私が入ったのは「麗ちゃん」。ここで牡蠣入り広島焼き(1200円)を注文する。

 

カキ入り広島焼き           このボリューム

 しばらく待つと焼きたての広島焼きが目の前に置かれる。そばが入っているのでかなりボリュームがある。牡蠣の入ったお好み焼きと言えば、つい先週に日生でカキオコを食べてきたところだが、カキオコと今回のお好み焼きはコンセプトが全く異なることに気づく。カキオコはあくまで牡蠣を食べるためのお好み焼きであったのに対し、今回のメニューは広島焼きという完成された世界に具の一つとして牡蠣が加えられているという形である。カキオコでは牡蠣がメインであり中心であったのに対し、こちらでは牡蠣はあくまで脇役の一つという位置づけに過ぎない。とは言うものの、どちらが上でどちらが下というわけでもない。あくまでコンセプトの違いなのである。

 今回、広島焼きが人気を博する理由もなんとなく理解できた。確かにこのたっぷりのキャベツの甘みは大阪のお好み焼きとは異なる風味である。生地に最初からキャベツを練り込んである大阪式お好み焼きではこうはならない。「お好み焼き」と一括りにしてもかくもバリエーションがあるのである。やはり食文化とは深い。

 私が出た後にはまた行列が

 腹が一杯になると、広島土産の定番にしき堂の紅葉饅頭をみやげに買い込み、岡山行きの普通列車に乗り込んだ。まだ昼の時間だから列車の中はすいている。実は早々と帰ることを決めたのは、前回の広島訪問の帰路、夕方の混雑した列車の中で座席が窮屈で異常に疲れた記憶があったせいもある。本当はお金があれば新幹線でも使ってサクッと帰りたいところだが、宿泊費に飲食費まで費やした挙げ句に交通費に投入する予算などどこにも残っていない。ああ、お金が欲しい・・・。

 こうして私は山陽本線で延々と帰宅の途についたのであった。途中で改装のなった岡山駅で乗り換えがてらに土産物を買い込んで、ようやく帰宅した頃には既に夜となっていた。

 

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