展覧会遠征 宇治編

 

 さて先日は不覚にも山城攻略で足を痛め、その後は週末の行動が大きく制約されることになってしまった。しかしようやくその足も大分回復し、平地を歩く分には歩けるようになった(まだ階段などはつらいが)。そういうわけで今週は京都に遠征することにした。

 

 ここで使用するのが「関西2day切符」である。関西一円の私鉄が3800円で任意の二日間乗り放題というお得切符である。しかしこの切符、よほど関西人には利用させたくないらしく近畿地区内では販売していない。そこで先の岡山遠征の時に現地の近畿日本ツーリストで引換券を購入しおり、これがあの時に言った「後のための伏線」というやつである。本来はすぐに引き換えて使用する予定だったのだが、先日の事故で予定がガタガタになり、気がつけば引き換え期間の一ヶ月が近づいてきていたというお粗末。そこで慌てての京都遠征となった次第。

 駅に引換券を持参して2day切符を入手すると、まずは山陽電鉄と阪急を乗り継いで京都へ移動である。出かけたのが予定よりも若干遅れたせいもあり、地下鉄で現地に到着した時には既に昼前となっていた。そこで美術館よりも昼食を先行させることにする。

 今回昼食を摂ったのは、京都文化博物館内にある「鳥彌三あざみ」。鳥の水炊きなど鳥料理店の老舗の姉妹店ということらしい。実は以前からここを訪れるたびに気にはなっていたので、一度入ってみようと思った次第。注文したのは「親子丼とうどんのセット(1380円)」

  地階がある構造

 ふわりとした半熟玉子の具合がたまらない。また鳥はしっかりと焼いてあり、適度な歯ごたえがあって柔らかい玉子との対比の妙をなしている。味付けも濃すぎず薄すぎずで絶妙なところ。下手な店だとどぎつい味付けになるところだが、さすがに京都だけあって味付けが上品である。またうどんの方も冷うどんにしたためか、麺のしまりが良くて意外に腰があってうまい。

オーソドックスな親子丼

 昼食を堪能したところでデザートも頂くことにした。注文したのは「焼プリン(600円)」。これがまたいかにも懐かしい、カスタードの味が強くするしっかりしたプリン。市販品などに多い凝固剤で固めた柔らかいプリンではなく、しっかりと焼き固めたという舌触りの懐かしいプリンである。やはりのこの辺りは鳥料理店だけあって、玉子の扱いは手慣れたものというところか。

しっかりした懐かしい趣のプリン

 昼食を終えるとそのまま美術館の見学。

 


「白樺派の愛した美術」京都文化博物館で7/20まで

 

 武者小路実篤やや志賀直哉らが中心となって設立した文芸誌「白樺」は、単に彼らの小説を掲載するだけでなく、毎号美術作品をを紹介して美術評論なども掲載する美術雑誌としての側面も持っていた。「白樺」では特にゴッホやゴーギャンなど同時代の作品を熱心に紹介し、まだ西洋絵画が広く普及しているとは言いがたい日本の美術界にも大きな影響を与えた。そのような「白樺」や掲載された作品などを中心として展示した展覧会である。

 白樺が紹介した美術作品はいわゆる印象派の作品が中心である。当時としては印象派の作品は最先端のかなり尖った表現であったはずだが、今日では日本で最も一般的に人気があるのが印象派の作品であることを考えると、白樺がいかに日本人に影響を与えたかもうかがえるというものである。なお白樺が美術界において重要性を増すと共に、作家だけでなく画家も参入してきたのであるが、そのような画家達の作品も多数展示してある。白樺が特に力を入れて紹介したのは、ゴッホやゴーギャンだと言うが、彼らの作品を見ればこれらの影響が顕著に現れているのがうかがえる。

 現在は日本でも多くの一流の西洋絵画を見ることができるようになったが、それが叶わない時代に遠く西洋の芸術に夢を馳せた彼らの功績について考えてみるも良かろう。

 


 この後は地下鉄で京都駅に移動。次の目的地はそこである。

 


「描かれた不思議な世界 ミヒャエル・ゾーヴァ展」「えき」KYOTOで7/12まで

 

 絵本の挿絵などで知られ、最近では「アメリ」の美術も手がけたというミヒャエル・ゾーヴァの作品を集めた展覧会。

 とにかく奇妙な感覚の作品である。いずれの作品も超現実的な感覚に支配された印象の深い作品で、ある種の狂気を秘めているとさえ感じられ、一度目にすると強烈に深層心理に焼き付いてしまう。またいずれの作品も明らかに風刺が込められているのだが、それが声高だったり嫌みったらしく皮肉るというのではなく、なんとなく煙に巻かれるような感覚を受ける。

 彼の作品のこの効果を支えているのは、彼自身の感性もさることながら、卓越した表現力と描写力であろう。技術の裏打ちがあるので、彼の意図が空回りせずに強烈に観客に響いてくるのである。実際、画面の一部に描かれている妙なキャラクターを除けば、非常に完成度の高い風景画として成立する作品も少なくない。

 「百聞は一見にしかず」という言葉がまさにピッタリなのが彼の作品だろう。

 


 毎度のことながら、この京都駅ビルは来る度にストレスがたまる。その下品な外観は今更に言うまでもないが、さらに呆れるのはその内部構造のひどさ。とにかく人間の動線を全く考えていない設計は非常に使いにくく、どこに移動するにしてもストレスがたまる。一体何を考えて設計したら、こんな最悪な建造物ができるのだろうと感心するぐらい。建築のことを全く知らないデザイナーが、デザイン優先で作ったデザイナーズハウスなどでは、あり得ないような欠陥がよくあると言うが(玄関のドアに水に弱い素材を使用したために、半年で玄関ドアが朽ちたなんて例もあるとか)、その類ではないかという気さえする。

 

 とにかく今回の京都の予定はこれで終わり。この後はオプショナルツアーである。目的地は宇治。とりあえず近鉄で丹波橋まで移動すると京阪に乗り換え、中書島で京阪宇治線に乗り換える。京阪の宇治線は初乗車だが、京都近郊と言うことで沿線人口はなかなか多いようで利用者も多い。

 宇治駅に到着

 間もなく宇治駅に到着。京阪宇治駅からはJRの線路がすぐそこに見えている。その下をくぐるような形で駅舎を出ると、そこは既に「お抹茶ワールド」である。いきなり目の前に「茶団子」の看板が見える。早速目の前の「駿河屋」でおみやげの茶団子を購入。さらにもう少し奥のそば屋「しゅばく」に入店。「辛み大根おろしそば(950円)」を注文。

  箱にびっしりと入った茶団子

 しばらく待った後に運ばれてきたそばは、かなり細いそばであることがまず印象的。ここのそばは石臼でひいたそば粉を使った10割そばとのことであるが、確かに口に含んだ途端にそばの香りがするようなそばである。10割そばは下手な作り方をするとぼそぼそしたそばになってしまうが、そういうこともない。また薬味の辛み大根の爽やかさがそばの風味を引き立てる。

  しゅばくで10割そばをいただく

 のどごしも良く、非常に良くできたそばである。ただ個人的な好みから言えば、つゆの味ががやや薄目であるということを感じた。多分、つゆの味があまりに強くなるとそばの香りを邪魔することを気にしたのであろうと思われるが。それだけデリケートなそばであるから、当然のように店内は完全禁煙。確かに店内で誰かがタバコを吸うだけで、そばの匂いなど消し飛んでしまう。

 

 腹ごしらえをした後は、近くの「源氏物語ミュージアム」を見学する。しかしこのミュージアム、「源氏物語」なんてテーマで何を展示するのかと思っていたら、予想通り今一つ意味不明な展示が多い。源氏物語の世界を再現とばかりに展示には金はかかっているのだが、そもそもは源氏物語は大長編の上に、内容自体は今で言う「昼メロ」。それだけに一部の場面を再現しても物語の全貌はさっぱり分からないし、しかもあまり微に入り細に入り再現すると下手をすると18禁になってしまう恐れもある。結局は今一つパッとしない展示になってしまっている印象を受けた。

 

 なお30分後に「橋姫」なる映画の上映があると聞いたのだが、こんなところで30分も待っていたら夕方になってしまう。今日一杯は再入場可能と聞いたので、映画の最終上映時間を聞いてからまず平等院の方に向かうことにする。

 さわらびの道

 平等院には「さわらびの道」なる小路を通っていくと橋のところに出られるとのこと。さわらびの道は寺院などもあり散歩するには格好の雰囲気だが、私は先を急いでいるのでやや早足で駆け抜ける。川縁に出ると、そこから橋を二本渡ったら平等院の参道筋に出ることができる。

 平等院で驚いたのは、まず入場に600円かかり、さらに鳳凰堂の内部に入るには追加の300円がかかる上に、人数制限があるとのこと(20分ごとに50人までとのこと)。もう既に夕方が近づいていたので今だと最終回の入場しかないとのことで、それだと遅すぎるので鳳凰堂の内部見学はやめた。どうせ中には阿弥陀如来座像(国宝)があるだけだし、私は仏像にはあまり興味はないので、外からの見学だけにしておく。

 鳳凰堂も今でこそ塗色などがはげてわびさびの世界になってしまっているが、元々は朱塗りに碧、さらに金箔を多用した絢爛豪華な極彩色の世界だったはずである。そもそも仏教関係の寺院はそんなものであり、往年の京都はケバケバの世界だったはずなのである。京都の寺院見学をする場合は、そういう姿をイメージしながら行う必要がある。ちなみにその往年のケバケバの姿は、今日ではCGなどで再現されて結構あちこちで眼にすることができるので、これは非常に参考になろう。

  

 平等院内は修学旅行生らしい団体が多い。どこからか「10円玉、10円玉」という声が聞こえてくる。やっぱりここを訪れたら一番最初に頭に浮かぶのはそれのようである。ちなみに日本は都市の景観というものを全く考えていないことが嘆かわしいことだが、ここも平等院から西の浄土に続く先に高層マンションが建ってしまって、そのあまりの無粋さに景観論争が沸き起こっているという。と言っても、建物が建ってしまってからでは遅すぎるのであるが。

 参道筋は御抹茶ワールド

 平等院の見学を終えた後は参道筋の抹茶ワールドで休憩することにする。入店したのは「三星園 上林三入本店」。ここで「抹茶と茶団子のセット」を注文する。

  茶店で一服

 ここの茶団子は抹茶を練り込んだ団子でなく、白団子に抹茶砂糖をかけたもの。しかしこれがなかなかにうまい。またさすがに御茶屋だけあって、抹茶の味が深くてうまい。抹茶マニアではない私は、抹茶なんて苦いだけだと思っていたのだが、どうしてどうしてそんな単純な世界ではないと言うことが分かった次第。

 

宇治川には紫式部の像が立っていました

 まさに喫茶してゆっくりしてから映画に間に合うようにミュージアムの方に帰還。ただし結果としてはわざわざ戻るまでもなかったというのが結論。件の映画は、まるで今時の感性優先でストーリーの基本さえわきまえていない新進監督辺りの作品のような、一体何を言いたいんだか意味不明の内容だった。これだったら平等院をもっとゆっくり見学しとけば良かった。まあもうこれでこのミュージアムに二度と来る必要はなくなったが。

 ミュージアムを出る頃には夕方になっていた。後は京阪と地下鉄と阪神を乗り継いで帰宅するだけ。とは言うもののなかなかに長い道のりで、家に帰り着く頃には夜も更けていたのであった。

 

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