展覧会遠征 大阪・福井編

 

 この週末は大阪から福井への移動という変則的なものになった。その経緯は、まず土曜日に開催されるドレスデン交響楽団の演奏会のチケットを入手したところ、その後に翌日曜日に福井のハーモニーホールでNHK交響楽団の地方公演が開催されるという情報が飛び込んできたことによる。福井となれば「東京よりは近いか」ということで「行こう」となった次第。

 

 ただ福井のハーモニーホールと言えば、鉄道の便がないわけではないのだが決して便利とは言い難い。まだホールに行くだけなら鉄道でも良いのだが、その他のことを考えると鉄道ではしんどい。結局は車を使うという選択肢になるのだが、するとこの公演が5時からと日曜日の公演にしてはやけに開演時刻が遅いため、その日のうちに帰るのはかなりハード。結局は月曜日に有休を取得しての二泊三日行程となった次第。

 

 今まで大阪に行く時には私は原則として車を使用したことがない。大阪市内は極めて走りにくい上に車を置く場所に困るからである。そこで今回は事前に駐車場の候補を複数見定めての出発となった。毎度のことながら、この周到さが仕事の上で発揮されていたら今頃は・・・(以下略)。

 

 土曜の午前中に出発。途中で阪神高速の渋滞に巻き込まれるということもあったが、この辺りはおおよそ想定内。大阪には昼前に到着、目星をつけていた駐車場にも無事に空きがあり、予定通りに車を置いて出発となる。

 

 大阪周辺の渋滞が完全には読めなかったため時間に十分に余裕をおいて早めに行動したら、開演までにかなりの時間的余裕ができすぎてしまった。現在の大阪周辺は展覧会の方も生憎と出し物なしですることがない。仕方ないのでとりあえずゆっくりと昼食を摂ることにする。入店したのは「Da-Wa」。お洒落な焼き肉屋のようだ。夕食は相場が高すぎて私には無理だが、ランチメニューは妥当な価格帯のものを用意している模様。「ビフカツランチ(800円)」を注文する。

 焼き肉用と思われる薄手の肉に衣をかぶせて揚げ、デミグラスソースをかけている。肉が薄手のせいでやや硬めに感じるが、味はなかかな良い。800円でこの内容なら悪くない。なお1000円ちょっと程度でステーキランチもある模様。

 

 ゆっくりと昼食を摂り終わってもまだ開場時刻までに30分もある。外は生憎小雨がぱらつく天候だし、この近所で時間をつぶせる場所を知らない。仕方ないのでホールの軒先下で雨宿りしながらこの原稿を打っている(笑)。

 

 しばらく後にようやく開場時刻。どうやら当日券狙いの客も結構いる模様。とりあえず私も早めに入場することにする。それにしても毎度のことながら、全席指定席なので急ぐ必要もないにも関わらず必ず開演時刻前にやってきて、入口の前で整然と行列を作って待っている日本人の習性には感心する。もっとも、かく言う私もそんな日本人の一人なのではあるが。

 

 今回のチケットはやや早めに優先予約で押さえたものだったので、私の席はホール中央のやや後ろというなかなかのポジションである。

 


ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

 

[指揮]ミヒャエル・ザンデルリンク

 

ベートーヴェン:歌劇 「フィデリオ」序曲

ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 「運命」 op.67

ベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 op.92

 

 最初の「フィデリオ」序曲が始まった途端に「何だ?」という疑問が頭にあふれる。管楽器のアンサンブルがガタガタ。金管は薄っぺらい上に不安定だし、木管は響きがヒステリック。また弦も決してレベルが高いというわけでなく、強奏になるとアンサンブルが微妙に狂って音色が濁る。

 二曲目の「運命」では管楽器奏者の一部が入れ替わって、先ほどよりは幾分はマシになるが、それでも傾向は変わらず。管と弦が重なるとサウンドがグチャグチャしてアンサンブルが全面崩壊するギリギリに感じられることも。

 休憩後の交響曲7番は前半よりはまとまりが良くなったが、金管が違和感があるのは相変わらず、特にホルンの軽すぎる音色は基本的にベートーベンにマッチしていない。アンサンブルが危ない箇所も数カ所。それでもどうにかこうにかフィナーレはまとめたという印象である。

 ミヒャエル・ザンデルリンクの指揮は、テンポや強弱などをいきなり大きく振ったり、休止部分をかなり明確に際だたせるなどダイナミックなものなのだが、このオーケストラではそれが完全に効果を上げているとは言い難い。テンポの変化にはどうにかこうにか付いてくるが(それでも終盤にテンポを上げてきた時には危ない局面もあった)、強弱の方が管は基本的に音量を押さえられない上に弦は弱音になると不安定さが増すという状態。どうしてもダイナミックレンジに制約がついてしまう。

 あまり上手くないオケだなという印象だが、おやっ?と思ったのがアンコールの「ウィリアムテル序曲」。軽くて明るい金管と弦がかみ合って、今日一番の安定した演奏。これで思ったのは、オーケストラの技量にも問題はあるが、そもそもこのオケはこの手のライトな曲が得意なポップスオケのようなものではないのかということ。ドイツのオケだからということで、日本人受けを考えてベートーベンを並べたガチガチのドイツメニューできたが、そもそもこのプログラム自体が間違いなのではないかということである・・・のだが、後で調べてみると「ドイツ正統派の手堅いオケ」などという評がある。ベートーベンについても前回の来日でも演奏しており、それなりに好評であったようである。今日の演奏が特別におかしかったのか、それともこれが今のこのオケの実力なのか、それともおかしいのは私の耳なのか。


 一回こっきりの演奏会では判断に困るところだが、正直なところ今日の演奏だけで言えば演奏の不安定さではこれまで聴いたオケの中でも最低クラス。弦は大阪交響楽団よりはマシで、管はドッコイドッコイという印象であった。全く、ライブは何があるやら分からない。

 

 コンサートを終えると今日の宿泊地の敦賀まで長駆することになる。明日のコンサートが福井だから、敦賀ぐらいまでは今日のうちに走っておこうという考え。しかしいざ走ってみると敦賀までは結構遠い。大阪−敦賀間は新快速でも2時間程度なのでそう遠いという感覚はなかったのだが、湖西線を通る新快速と違って高速道路は湖東を回り込んでいるのでかなり遠回りをしている。しかも雨で足下が危ないからスピードを上げられない。敦賀に到着した時には心身共に結構疲れてしまった。

 

 敦賀での宿泊ホテルは「マンテンホテル敦賀駅前」。マンテンホテルは北陸地域のローカルホテルチェーンで、大浴場完備さらに夜鳴きそば付きから始まって、部屋の装備なども含めていろいろな点で私の定宿だったドーミーインと似ているのが特徴である。ドーミーインが最近になって高価格路線に転じて、ドーミーイン金沢に至っては曜日によってはビジネスホテルにあるまじき非常識な宿泊料(朝食付きで一泊1万5千円以上とか)設定をするようになって事実上使い物にならなくなった昨今、私にとっては山陰地域のホテルモーリスと共に貴重な「ドーミーイン互換ホテル」である。

 

 ホテルにチェックインしたのは6時半頃。まずは大浴場に直行して体をほぐす。ただの新湯だが、やはり狭い部屋風呂と違って心地良い。

 敦賀駅前はまだ工事中

 風呂から上がって7時を回ると夕食のために町に繰り出す。以前の敦賀訪問の際になかなか良かった「うおさき」に行くつもりだったのだが、残念ながら「定休日」の看板が出ていて休み。仕方ないのでしばし駅前をウロウロするが、土曜のせいか駅前が工事中のせいか、閉まっている店が多い。そこでようやく見つけた「食事処 建」に入店する。

 注文したのは「刺身定食の上(1700円)」。一品料理を追加しようと思ったが、刺身類など1000円以上のメニューが多く、迂闊に頼みすぎるとすぐに5000円を越えそう。そこで安めの「牡蛎フライ(600円)」「バイガイの煮付け(600円)」を追加。

 刺身定食は特に工夫はないがさすがに魚は新鮮でうまい。バイガイはサザエの親戚のような貝。見た目は若干エグいが、爪楊枝で貝殻から引き出して丸かじりするとなかなかにうまい。サザエほどエグ味がないのが私向き。さらに最後に夏の牡蛎フライを堪能。まあこれで2900円なら悪くない。

 

 店内のテレビを見たら、歌謡祭とやらで森高千里が出ている。二児の母の40代でアイドル復帰とは驚異的である。ただ確かに見た目は昔とほとんど変わった印象がない。同年代の他のアイドルがすっかりおばさんめいてしまっていることを考えると、劣化知らずとか果ては化け物とまで言われるのも分からないではない。実年齢より10歳は若く見える。逆に最近は旦那の江口の方がすっかり老け込んでいる。もっとも歌の方は当時よりもさらに下手になっているようだが。

 松本零士色が強すぎるために新作YAMATOでは大幅に登場が減った佐渡先生

 夕食から帰ってくるとこの原稿を打ったりしながらマッタリ。そのうちに9時半になったので夜鳴きそばを食べにレストランへ。ドーミーの夜鳴きそばは麺半玉ぐらいの本当に小腹を満たすものなのだが、ここのは麺一玉あるかなりガッツリ食べる夜鳴きそばになっている。

 

 夜鳴きそばで腹が重くなったら瞼も重くなってきた。やや早めではあるが就寝することにする。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 就寝が早かったせいで翌朝は5時に目が覚めてしまった。やや早い気がするが、今から寝直すのも中途半端なのでこのまま起床する。朝風呂で目を覚ますと朝食バイキングへ。ご当地ものもあるなかなか充実したバイキングで和食でガッツリと頂く。

 

 さて今日の予定だが、基本的には福井ハーモニーホールで開催されるN響の演奏会に参加するのが一番の目的である。ただその開演が17時からなので、それまでに十分すぎる時間がある。そこでどうするか。普通に考えると美術館に立ち寄ることになるし、その予定も組んでいるのだが、福井周辺の美術館と言えば、市立美術館と県立美術館の二つしかない。金沢まで行けばいろいろあるが、さすがに金沢は遠すぎる上に市内は慢性の渋滞なので車で向かうのはリスキー過ぎる。

 

 そこで立ち寄り先として考えたのが、今まで2回の攻略に失敗している「岩倉城」である。昨日の天候の様子では「これは無理かな」という印象だったのだが、今日になると曇ってはいるが雨はやんでいるし、天気予報を見ても東海地域は雨のようだが北陸地域は雨は降らない模様。もし岩倉城が無理そうならチェックアウト最終時刻の10時前まで部屋でゴロゴロするしかないかと思っていたが、これは決行可能と判断してホテルを8時前にチェックアウトする。

 

 北陸道を小松ICまで突っ走り、そこから国道360号をを東進する。岩倉城見学用の駐車場は用意されており、その場所はもう覚えている。先客が一組いたようなので、その横に車を置くと登山口に向かう。途中で山の方から来るカップルと遭遇。どうやら彼らが先客だった模様。軽く挨拶を交わす。

 獣除け用のフェンスを抜けると登山道である。岩倉城の登山道は大体整備されているが、何カ所かトラップがあって、前回の訪問ではその一番最初のトラップで登山道からはずれてしまって断念したのである。その箇所まで差し掛かったが、今回は間違いようがない。前回訪問時は正規ルートの方があまりに鬱蒼としていた上に雨水がダラダラと上から流れてきている状態で、とても登山道とは思えなかったのだが、今回は軽トラによるものと思われる轍の跡も残っているし、下草もいくらか刈られたようだ。

左 看板に従って田んぼの脇を進む  中央 獣除けフェンスがある  右 山道に入る

左 ここが入口のようだ  中央 その脇には獣用檻が  右 一応轍の跡が見える

 そこをさらにしばらく登り続けると、またも分岐点。正面に向かうのは道のような道でないような微妙な道で非常に険しい。一方の右側には車が通ったような跡が見られる歩きやすそうな道が通っている。とりあえず体力に自信がないことからそちらの道を行く。

 正面に向かう道?と左に向かう道がある

 結局はこれで正解だったようだ。直進する道は本来の登城路で、こちらは地元民が山の管理に軽トラで登る道だと思われる。少々遠回りではあるがなだらかなこの道を進むと、途中で先ほどの道(と思われる)と合流、そこには軽トラ一台止められそうなぐらいのスペースも作ってある。そしてここからが本格的な山道登りになる。

 登城路を示す標識があり、本格的な山道になる

 以前ならそれほどでもないと思われるのだが、今年に入ってからインドア活動ばかりしていたせいで体が極限まで鈍りきっており、この登りがとにかく体に堪える。ヒーヒーという感じで登っていく。途中で「→さむらい道」という標識があったが、これは無視。先人によるとこれに従って進むと山を下りてしまうらしい。これもトラップだ。

左 登り初めてすぐのトラップ  中央 さらに登っていくと  右 平坦な道になる

 ひとしきり登り切るとしばし平坦な道が続く。この辺りは家臣の屋敷などの城関係の施設があっても不思議でない地形なのだが、一面藪なので詳細は不明。ここをしばし進むと岩倉城跡と岩倉観音を示す標識に出くわす。ここは当然のように岩倉城跡を目指す。

左 明らかに屋敷跡か何かの平地  中央 お地蔵さんがある  右 岩倉城跡と岩倉観音の標識

 ここからがまた再び登り。先ほどの平坦地に出たところで「もうこれで終わりか」という気持ちが起こっていたので心理的にキツい。「次の曲がりを越えたら頂上か?」という期待に何度も裏切られつつ、ようやくヘロヘロになって本丸にたどり着く。

左 本丸手前の馬出  中央 本丸に到着  右 本丸

左 奥には土塁がある  中央 投石用の石  右 東門

 本丸にたどり着いたところで一番最初に行ったのはスマホを取り出すこと。実は秋の京都市交響楽団の演奏会の優先予約が今日の10時からである。先ほどの登りの途中で10時になったのだが、あそこではさすがにスマホがつながらなかったので山を下りてからにしようかと思っていたのだが、もしかして山頂ならつながるかもと思ったら正解。見事に3Gでつながる。結局私はコンサートのチケットを山頂で確保したのである。

 一仕事終えたところで城巡りの本題に戻る。本丸はそれなりの広さがあり、回りにはこれを守るべく土塁や帯曲輪なども巡らされている。また馬出などの構造もそのまま残っており、結構凝った縄張りである上に予想以上に保存状態も良い。

左 搦め手口を抜けて  中央・右 角馬出に出る

 東口から出た先に出丸などがあるとのことだが、道がハッキリしていない。久しぶりの登山で脚にもかなりダメージが来ているし、無理はせず今回はこれだけで満足して下山する。

 

 これで永らく心に引っかかっていた宿題も解決することが出来た。体にはかなりキツかったが、鈍りきっていた体のリハビリにはちょうど良かったろう。インドア活動がメインになった途端に体力の低下が著しかったから、今後はこの手の運動も意識的にやっていく必要がありそうだ。

 

 宿題を終えると福井に引き返す。後は福井の美術館でも回って時間をつぶすつもりだが、その前に昼食を摂る必要はある。福井と言えば越前そばかソースカツ丼。久しぶりに「ヨーロッパ軒」に立ち寄ることにする。

 コインパーキングに車を置いて店の前に行くと先客が二組ほど。昼時だしこのぐらいはありそうだ。しかしるるぶを片手にキャーキャー言いながら店の写真を撮っている連中を見ると、自分のことは棚に上げてすごく馬鹿っぽく見えてしまう。

 かなり待ち客が多い

 客の回転が早いのですぐに入店できる。注文したのは「カツ丼セット(1080円)」。以前訪問した時にはこれに牡蠣フライをつけた記憶があるが、シーズンのせいか今回はメニューに見当たらなかった。

 ウスターソースにくぐらせた薄手のカツ3枚をご飯にのせ、その上からソースをかけただけのシンプルなメニュー。しかしこの甘手のソースがなぜか絶妙に上手い。私は他のソースカツ丼についてはうまいと感じたことは一度もないのだが(加古川のカツめしなどはむしろまずい)、ここのソースカツ丼はやはりうまいと感じる。洋食でありながら妙の和風に感じられるところがまた良い。

 

 朝食を終えるとまずは市立美術館に立ち寄る。この科特待本部みたいな建物を訪れのは久しぶりである。それにしてもこの美術館、アクセスの不便な場所にある。

 


「アメリカン・ポップアート展〜1960年代からのアメリカ〜」福井市美術館で7/12まで

 20世紀にアメリカで隆盛したポップアートの代表的な作品を展示した展覧会。

 定番どころが一堂に集合したという印象。ウォーホルのマリリン・モンローにキャンベルスープ缶、さらにリキテンシュタインのアメコミといったこのテーマの展覧会に必須の辺りは完全に網羅しており、それ以外も「どこかで見たことがある」作品のオンパレードである。この手に興味のある者ならかなり楽しめるだろう。私自身はこの手の大量生産アートには微塵も興味のない人間だが。


 市立美術館の見学後は再び福井市街に戻り、県立美術館に向かう。ここは本来は明日に立ち寄るつもりだったが、想定よりもスケジュールが早く回っているので今日に回すことにした。

 

 美術館に到着。しかし駐車場が満車のようで臨時駐車場(学校の校庭)に回される。ここも車が一杯。美術館で混雑するネタが「エジプト、浮世絵、印象派」と言ったのは私であるが、この法則は今回も当たっているようだ。なお子供の場合は「鉄道、恐竜、アンパンマン」である。


「古代エジプト美術の世界展 魔法と神秘」福井県立美術館で8/30まで

  

 古代エジプト文明において、祭祀や魔術というのは非常に重要な要素である。特にエジプト文字であるヒエログリフは、単なる記録のための実用的な意味だけでなく、これ自体が呪術性を持つ魔術文字でもあった。死後の復活とあの世での永遠の命を望んだ彼らは、自らの遺体をミイラ化すると共にこれらの呪文をその棺に刻んでいる。このような魔術文字ヒエログリフや装飾、神像などを中心にエジプト文明に迫る。

 本展出展品は世界屈指のエジプト美術コレクションであるガンドゥール美術財団の所蔵品とのこと。今回の出展作はすべて日本初公開であるとのことだが、とにかく驚くほどにレベルが高いコレクションであるのは明らかである。内容が多彩であるだけでなく、非常に保存状態が良く、往時の色彩が残っている品が多い。

 圧巻は最後に展示されているミイラの棺。いろいろな物語やヒエログリフが描かれており、これが再生を願う魔術的仕掛けとなっている。このようなところに彼らの死生観が現れていて非常に興味深い。

  


 これで予定していたスケジュールはすべて終了してしまった。まだコンサートの開演時間までは余裕があるが、することもなければ立ち寄るところもない。とりあえずホールに向かうことにする。ホールは福井市街をしばらく南下した先にある。

  

 結局はホールには開場時刻の30分以上前に到着してしまう。郊外の公園のようになっている中にホールはあるようだ。とりあえず駐車場に車をおいてホールに行ってみたが、このくそ暑いのにホールの中には喫茶店もないようだ。これでは仕方ないので向こうに見えるレストランにでも行こうかと思ったのだが、なんと今日の営業はもう終了とか。これからドカドカ人が集まるのに、こんな時に店を閉めているとは商売っ気がなさすぎるというか、単にどんくさいというか。実際にその間にも人は続々と集まり、レストランの前で追い返されている者も多数。開場時刻までかなりあるのに、ホールの手前で滞留する人数がドンドンと増えていく。場所が辺鄙にあるせいか、早めにやって来る者が多いようである(私も到着までに時間が読めなかったせいで早く着いた)。せめて加東市の会館のように図書館でも隣接していたらいくらか時間をつぶせるが、ここは小ホールと大ホールがあるだけというシンプルに過ぎる施設である。と言うわけで私もベンチでこの原稿を打っていたりする(笑)。

 内部のホール

 開演時刻は16時15分だが、16時前にはかなりの人数が集まってきて、ロビーは騒然とした状態に。例によって「完全指定席だから慌てる必要もないのに、なぜか入口前に行列を作って整然と待つ日本人」の習性が発揮されている。後から来て割り込みというのが常識の中国人には、この日本人の習性は理解できないだろう。彼らがこれを理解できるようになった時に初めて、念願の「中国が先進国として世界的に認められる」ことが実現するだろう。

 ザ・日本人

 ハーモニーホールの大ホールはシューズボックス型の二階建て。ただし二階席はそんなに大きくないので張り出しが少ないのが特徴。音響的には意外と悪くない。少なくとも西宮よりは随分と良いし、NHKホールとは比較するだけアホらしい。ただし一番奥の席からはステージまでにかなり距離がある。

   


ワイラーシュタイン指揮 NHK交響楽団 福井演奏会

 

指揮:ジョシュア・ワイラーシュタイン

ヴァイオリン:オーガスティン・ハーデリッヒ

 

メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」序曲

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲

コダーイ:ガランタ舞曲

チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」

 

 さすがN響と言うべきか、安定感に関しては抜群である。管があからさまにふらつくというようなことはないし、弦も弱音になっても整然として整っている。ただ逆に言えば安定しすぎ。本来は「真夏の夜の夢」などはもっと遊びがあっても良いのだが、そういう部分が全くない。俗な表現をすれば「クソ真面目でノリの悪い面白味のない演奏」ということに尽きてしまう。アンコールのハンガリー舞曲が「ああ、これで今日の仕事が終わりだ」という開放感でも出たかのような一番ノリの良い演奏であった。

 まだ20代半ばというワイラースタインは溌剌とした印象。大股の早歩きでステージに入場してくるのが印象的だが、指揮の動作も大きく、表現したい意欲に満ちているように感じられる。ただオケの方が日本のオケの中でも最も「冷めている」と言われているN響だけに、どこまで彼の指揮に従っているかが少々疑問。所々指揮者の独り相撲に感じられる部分があったりして少々痛々しい場面もあった。

 オーガスティン・ハーデリッヒは30そこそこの若手のバイオリニスト。テクニックはかなりあるようなのだが、演奏が繊細で力強さに少々欠ける印象。それがシベリウスのコンツェルトの曲想とも相まって、全体がピアニッシモな演奏というような感じになってしまった。こうなると演奏が客席のノイズの中に埋もれてしまう。なおアンコールでワイラースタインがバイオリンを持って出てきて、二人で重奏したのには驚いた。二人が並ぶと何となくマブダチに見える。


 コンサートホールはまずまずなのだが、気になったのは客層の方。やはりうるさい。他のホールよりも咳などが多いし、プログラムを膝から落としたり杖などを倒したと思われる大きな音が場内に響くことが一度や二度ではなかった。しかも床がカーペットを敷いていない木製なのでよく響く。同様に靴音の類もやたらに大きく響くので、革靴などで足踏みされるとその音が五月蠅くて仕方ない。また一番参ったのは私の後ろの席のオッサン。私は基本的に咳の類はあまり気にしない。出てしまうものは仕方ないし、私自身も喘息の気があるので運動などをすると咳の発作がよく出る(だから登山中の私はかなりやかましい)からである。ただこのオッサン、シベリウスのバイオリン協奏曲の間中、私の頭の真後ろで全く何の配慮もなく(口を手で押さえているような音ではなかった)毎分1回の割で咳をし続けたのである。さすがに今回だけは殺意を感じた。途中休憩で出ていった時、頼むからこのまま永久に帰ってくるなと思ったが、願い空しくしっかりと帰ってきて、後半の演奏中も回数こそ1/2〜1/3ぐらいには減ったが、最後までその調子で咳をし続けたのである。

 

 これでN響を聴くのは2回目ということになるが、なるほど技術は高いのだがネットなどでぼろくそに言う者もいるのも頷ける。妙にクールで魂が乗っているような感じがないのである。彼らに一言聞きたいとすれば「音楽って楽しい?」。

 

 コンサート終了後はホールの駐車場からの道が大渋滞で、ホールから出るのに予想以上に時間がかかる。なるほど、まだ拍手も鳴り止まないうちにホールを駆け出す輩が結構いたのはこういうことかと納得。ザ・シンフォニーホールなんかであれをする意味は全く分からないのだが、このホールだと理由も頷ける。それにしてもホールの駐車場の大きさといい、周辺の道路状況といい、ここの大ホールが満席になることは最初から想定されていないような気もする。

 

 大渋滞の中を抜けて福井の市街まで戻ってきた頃には8時頃になっていた。今日は福井の旅館で泊まるが、夕食なしプランなのでどこかで夕食を摂る必要がある。セブンイレブンで夜食を仕入れてから車中で一人作戦会議。福井に飲食店がないわけではないのだが、車の場合は駐車場が問題。特に福井の繁華街は古いタイプの町並みなので駐車場は意外とない。どうするかと思ったが、今から店を探すのも面倒なので以前に行ったことのある「佐佳枝亭」を訪れることにする。注文したのは「天ぷら越前そば」。腰の強いそばがなかなか。

  

 簡単に夕食を終えたところで旅館に向かう。今日の宿泊先は「大安寺温泉萬松閣」。福井市外のはずれにある温泉旅館。しかしホテルにアクセスする道路はこの時間になると真っ暗である。旅館は家族経営の旅館らしく、日帰り入浴も受け付けている模様。なお今日の宿泊客は私一人らしい。

 翌朝撮影

 とりあえず部屋で着替えると温泉大浴場へ。日帰り入浴が9時に終了ということなので風呂はほぼ貸切。アルカリ単純泉の肌当たりの優しい湯。またここの温泉は飲める温泉とのことで、風呂上がりには冷やした温泉水を頂ける。

 

 風呂から上がると部屋でマッタリしていたのだが、夜も更けてきた頃に体調に異変が現れた。急にのどがおかしくなって声がほとんど出なくなったのである。あのオッサンにコンサートの間中ずっと後から頭に咳を降りかけられていたせいか。参った。こんなところで風邪でもひいたら洒落にならない。体もダルいし早めに寝ることにする。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝になると声はガラガラだが何とか喋れるようにはなっていた。しかし体が異様にだるい。朝風呂で体に活を入れるが、だるさは根本的には解決しない。

 

 朝食はオーソドックスな和定食。干物に温泉玉子にノリや漬け物といったところだ。シンプルだがご飯はうまい。

 

 旅館を出たのは9時。今日は永平寺にでも立ち寄ってから帰るつもりである。福井市街を横断して山際の永平寺までは40分程度。

 

 門前は土産物屋で賑わっているが、その呼び込みが鬱陶しい。土産物を購入するなら土産物屋の駐車場に車を置けば良いが、土産物を買うかどうかは分からないのでこれらをパスして門正面の有料駐車場に車を置く。

 門から先は鬱蒼とした雰囲気である。永平寺は禅宗の修行の寺で、今でも多くの修行僧がいるという。ただその一方でかなり観光客慣れしているのも明らか。自動券売機で拝観券を購入すると、後は広間で内部の案内や注意事項の説明などがあり、その後は順路にしたがって見学というようにかなりシステマチックに観光客を動かすようになっている。そういう点では修行の場という割にはかなり俗世的でもある。観光客も修行をしたいと思ったら体験できるそうな。

左・中央 門を抜けた先は鬱蒼としている  右 永平寺全景図

 手前の傘松閣には天井一面に花の絵が描かれている。これは貴重なのでストロボを炊かないでくれとの注意が事前にあったが、部屋が薄暗いので外国人の団体は当然のようにそんな注意は無視してストロボを炊きまくり。また日本人でもストロボの切り方を知らない輩がいる。

傘松閣の天井画

 永平寺の本体は日の字型に配されており、中心に仏殿があり、奥に法堂がある。これらが斜面に配されているので結構階段の上り下りがある。

左 中庭  中央 仏殿  右 中雀門

左 承陽門  中央 承陽殿  右 承陽殿内部

左 法堂内部  中央 庫院  右 中雀門

 表の山門はかなり大きな門で、門番のように左右に多聞天、持国天、増長天、広目天のいわゆる四天王が守っている。比較的新しいのか色彩も豊かで造形も面白い。海洋堂辺りのフィギュアで出しても人気が出そう。

左から 北方多聞天 東方持国天 南方増長天 西方広目天

 永平寺の見学後は寂光苑へ。ここは所謂公園のようになっている。ここには自由に撞いてよい鐘があるので思い切り鳴らす。なかなかの重低音。しかも唸りが1分以上経っても消えない。低周波の共振というのはエネルギーが大きいのでなかなか衰退しないということを身をもって体験できる。なるほど、地震の長周期震動が大変なわけである。

寂光苑

 寂光苑の手前には玲瓏の滝がある。そう大きな滝ではないが、水の流れ方に風情があって実に絵になる。

  

 永平寺の見学を終えたところで帰宅することにする。ただもう昼時なので途中の店でそばを頂く。三色のそばにごま豆腐と生麩を付けた典型的な観光客向けのランチだが、味は悪くない。もっとも1500円は観光地価格。

  

 昼食も終えたし、後は福井北ICから北陸道に乗って帰宅・・・のつもりだったのだが、高速の入口を過ぎたところで米原方面行きの入口を塞ぐように工事車両が連なっていたせいで入り損ねて金沢方向に進んでしまうことに。仕方ないので次の丸岡ICで高速を一旦降りるが、このまま引き返すのも癪なので数年ぶりに丸岡城に立ち寄っていくことにする。

 「丸岡城」は現存天守の一つであるが、残念なのは天守は現存しているもののそれ以外の遺構がほとんど残っていないこと。さらに言えば現在の天守も福井地震で一度倒壊したものを、なるべく元の材料をそのまま使って復元したものである。天守は非常に急な階段(というかほとんど梯子に近い)が特徴で、観光客のためにロープがつるしてある。ここを登る時は足腰がしっかりしていることが前提。今の私は若干目眩があるのでかなり怖かった。なお階段のところにはしっかりと「なお、君もしくは君の仲間が階段から転落し、あるいは大怪我を負っても当局は一切関知しないからそのつもりで」という主旨の警告が貼ってある。ミッションインポシブルな天守なので、登る時にはあくまで自己責任で。

 丸岡城の最大の特徴は石瓦にある。寒冷地にある城なので、焼き物の瓦だと寒さで割れてしまうことから地元で産する笏谷石を瓦にしている。

左 石垣は湾曲している  中央 石瓦  右 異常に急な階段

 天守からは辺りを一望できる。かつては周囲を水堀で囲われていたらしいが、それらは今では完全に埋められている。現在資料館があるのは当時の堀の中、現在高校があるところがかつての二の丸だという。なお丸岡城は現存十二天守の中ではやはり一番残念な状態にあることから、堀を復元するという計画もあるらしい。ただ公園になっている部分は良いとして、住宅になってしまっている部分もあるので完全復元は難しかろう。さらにやはり門なんかも復元した方が格好はつく。

  

 この高校の辺りが二の丸だったらしい      往時の丸岡城の姿  

 丸岡城から降りてくると、麓の土産物屋でよもぎソフトで一服。ソフトにきな粉が振りかけてあって小豆も添えてあるという和風ソフトである。結構私好み。

 これで完全に全予定終了。後は北陸道から名神へと乗り継いでの帰宅と相成ったのだが、これがかなり長い行程の上に相当体にダメージが来ていることから思いの外辛かったのである。アクセルを踏んでいる右足は山登りのダメージで攣りそうになるし、気を張っていないとすぐに意識は飛びそうになるし。結局はSAごとに休憩を取りながらフラフラになって帰宅したのであった。

 

 福井が思っていたよりも遠かったのと、私の体力が思っていた以上に低下していたのが計算違いだった。なおメイン目的のライブはどっちもそれなりで、その分を山城遠征や美術館で埋めたという印象の遠征であった。それにしても落ちた体力とその分増えた体重を何とかしないと・・・。

 

 

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