展覧会遠征 京阪編6

 

 この週末は京阪地区のコンサートをはしごする事と相成った。まず最初は土曜日に開催される読響の大阪公演。開演は夕方の5時からなので、その前に美術館を回ることにする。

 

 天王寺に到着したところでまずは昼食。立ち寄ったのはいつもの「プチグリル マルヨシ」。今回は「ビフカツ定食(1380円)」を注文。やはり関西人にはカツと言えばビフカツというのは常識である。

 昼食を終えると、今回の宿泊ホテルであるスーパーホテル大阪・天王寺に立ち寄ると荷物を預けておく。それにしても昨今の大阪・京都地域でのホテルの高騰ぶりは常軌を逸している。今回の宿泊料も、私の感覚で言えば「スーパーホテルでこの価格はあり得ない」という額だが、ほかに選択肢がなかったので妥協した次第。物価の高騰は安倍式大馬鹿経済学で言うと景気が回復しているということになるらしい。しかし物価を煽っても賃金は抑制する方向(ついには労働基準法の廃止さえもくろんでいる)だから、庶民の生活は貧困化する一方で、回り回って経済も好転するはずもない。ただ物価が上がれば良いんだったら、歌舞伎町のボッタクリバーを景気回復に貢献していると表彰でもすれば良いのである。日本の経営者の質の低下が著しいが、それは経団連の姿勢に露骨に現れていて、四半期先のほんの目先の利益のことしか考えないので回り回って自らの首を絞めるような政策を簡単に要望する。日本の経済が低迷している根本原因はここにある。

 ホテルに荷物を預けて身軽になると再び天王寺駅に戻る。まずはハルカス美術館に立ち寄ることにする。


「春信一番! 写楽二番! フィラデルフィア美術館浮世絵名品展」あべのハルカス美術館で12/6まで

 

 フィラデルフィア美術館が所蔵する浮世絵コレクションを展示。浮世絵黎明期の単色版から始まり、錦絵が確立する時期の鈴木春信、さらに浮世絵全盛期と言える時期の鳥居清長、喜多川歌麿の美人画、さらに葛飾北斎、歌川広重の風景版画、そして東洲斎写楽の大首絵など、浮世絵の歴史を追える内容となっている。

 浮世絵と一口に言っても作者によって描き方に特徴があるのがよく分かる。妙に中性的な春信に対し、女性を美しく描くことに力を入れた歌麿、さらに独特の八頭身美人を描いた清長。さらには圧倒的な描写力の北斎に、斬新な視点をも駆使した広重、独創性では群を抜いていた写楽などまさに百家争鳴である。

 またアメリカのマニアのコレクションの例外に漏れず、いずれの作品も保存状態がかなり良好であることも特徴。往時の色彩に近い状態で楽しめるので、見たことのある絵でも印象が異なる場合がある。これはなかなかに見応えあり。


 ハルカス美術館の見学を終えると地下鉄谷町線で次の目的地へ移動。ここに来るのは久しぶりである。NHK大阪放送局と隣接した博物館である。


「唐画もん−武禅にろう苑、若冲も」大阪歴史博物館で12/13まで

 

 中国絵画の流れを汲んだ絵画が唐画。その唐画の絵師である武禅にろう苑、さらに同時代に活躍した奇想の絵師・若冲の作品などを中心に展示。

 唐画の特徴としてはとにかく精緻な描き込みがあることのようだが、画の雰囲気はかなり硬質であるのでその辺りが所謂円山派や狩野派などの絵画と異なる。武禅の作品などからは特にその雰囲気が感じられた。ただ正直なところ私の好みとは若干ズレる。

 個人的には若冲の「乗興舟」を見ることが出来たのが一番の収穫。白黒反転した画面の中で圧倒的な静けさを感じさせる風景が独特の魅力を醸し出していた。まあとにかく何でもありの画家である。


 さてそろそろ開演時間が近づいてきた。地下鉄とJRを乗り継いでザ・シンフォニーホールへ向かう。さてここに来るのは今年で何十回目であろうか。

 

 今回はS席とは言うもののチケットを取ったのがかなり遅かったので、一階の最後列の「本当にここでS席?」と言いたくなる席。読響は人気なのか場内はほぼ満席。多分チケットは完売だろう。定期演奏会がガラガラのセンチュリーなんかから見たらかなりうらやましいだろう状況である。


読売日本交響楽団 第12回 大阪定期演奏会

 

[指揮]オスモ・ヴァンスカ

[ピアノ]リーズ・ドゥ・ラ・サール

[管弦楽]読売日本交響楽団

 

シベリウス:交響詩「フィンランディア」

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番

シベリウス:交響曲 第2番

 

 最初のフィンランディアはかなり激しいいわゆる「爆演」で始まった。ただヴァンスカが振ると読響が北欧のオケのような音色を出すのは驚いた。

 ラフマニノフのピアノ協奏曲のソリストのラ・サールのピアノについては、以前にPACでラフマニノフの3番を聴いた時には「力強いが、それを通り越していささか乱暴」という印象を受けたのだが、今回は相変わらず力強さはあるがやや慎重な演奏に思われた。バックと合わせるのに苦労してどことなく探り探り演奏している印象で、やや抑えめでいたように感じられた。

 ヴァンスカの交響曲第2番はかなりの熱演である。とにかくダイナミックで、第一楽章はかなり高速に突っ走ると、第二楽章は逆にかなりのスローテンポでの演奏といった超メリハリ演奏。ただこのスローテンポ演奏は金管には厳しいようで、たまに金管がヘロる場面が見られたし、時々チューバが全体のバランスを崩すぐらいの爆音で鳴るのは気になった。ヴァンスカの指揮は、同じ楽章の中でも突然に極端にテンポや強弱を変えてくる。トップギアとローギアの差だけでなく、フォルテッシモとピアニシッモの差も極端に大きく、特にピアニッシモはとことん音量を絞ってくる。それにキチンと追随している読響(特に弦)にはさすがと感心した。ただ全体的にかなりクセの強い演奏であり、好みは分かれるところだと思う。私について言えば、正直なところあまり好みでない。


 このコンサートはテレビ放送があるとのことで、ステージにカメラが数台持ち込まれていた。ただこうなると目立ちたがりが現れるもので、フラブラも飛び出せば、「ブラボー」ならぬ「ナイス」という妙な掛け声まで。こんなところでしか目立ちようがないのか?

 

 天王寺まで戻ると夕食もMIOで済ませることにする。どこで夕食を摂るかと店を物色した結果、「四六時中」に入店することにする。注文したのは「牡蠣三昧御膳」

  

 牡蠣についてはまあこんなものというところか。産地でないのだからあまり多くを望んでは贅沢だろう。ただ今年はどうも牡蠣が小ぶりな気がする。まあまだシーズンの早めだからという可能性もあるが。

 

 夕食後はホテルに戻り急いで入浴。ここはナトリウム−炭酸水素塩の温泉大浴場があるものの男女入れ替え制で、9時を過ぎると次は11時になってしまう。はっきり言って不便極まりない。その割りには宿泊料が高い。

 

 入浴後はしばしマッタリするものの疲れがひどい。早めに寝ることにする。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は7時に起床するとすぐに朝風呂。これもまた8時を過ぎると男湯は終わりになってしまう。とにかく不便だ。

 

 入浴後は朝食。朝食バイキングはスーパーホテルの中ではまあ良い方か。とは言え、スーパーホテルはあくまでスーパーホテルである。

 朝食後は10時頃まで部屋でボーッと過ごす。今日の予定は2時半からの京響のコンサートで、後は美術館に一カ所立ち寄るつもり程度なので時間に非常に余裕がある。あまり早く出ても時間が余るだけだし、今日はなぜか非常に疲れている。

 

 10時前にホテルを出ると京都に直行する。しかし相も変わらずと言うか、JR京都駅は異常な混雑で改札を抜けるだけでも容易でない。しかも道路は完全麻痺状態で、地下鉄も異常な混雑。つくづく秋の京都なんて来るもんじゃない。

 

 すし詰めの地下鉄でたどり着いた最初の立ち寄り先は東山。途中で改装中のロームシアターの前を通る。改装完成後は京都のホールは北山の京都コンサートホールと東山のロームシアターになるのか。西山と南山はないのか?

 ロームシアターは改装中

 目的地だが細見美術館である。現在の京都は琳派絡みの展覧会が各地で開催されているが、その最後の一つ。尾形乾山のやきものを展示した展覧会である。

 

 ただし美術館に入館する前に昼食を摂ることにする。美術館向かいの「CAFE CUBE」に入店、パスタのコースを注文することにする。

 お洒落な雰囲気のレストランでパスタの味もまずまず。ただボリュームはやや不足でお値段も少々お高めという典型的な京都飯。

 昼食後は美術館に入館する。


「MIHO MUSEUM所蔵 琳派のやきもの 乾山」細見美術館で11/23まで

 琳派と言えば絵画が一番にイメージされるが、焼物においても尾形乾山が独自のスタイルを編み出していた。その乾山の作品を展示。

 乾山の陶器といえば以前にサントリー美術館でも見たが、展示品はそれと同じようなものが多い。もっともシンプルなものが角皿を短冊などに見立ててそのまま絵を描いたもの。このような作品はもっとも絵画に近いように思われるが、焼物としてはあまり面白くない。

 やっぱり一番面白いのは独特の鮮やかな色彩を施した陶磁器。ただこれらの作品を改めて見ると、乾山の完全オリジナルと言うよりもどことなく織部の流れを汲んでいるような印象も受ける。高フ釉薬を使用した作品などは特にその感が強い。


 美術館見学後はホールに直行する。今回のコンサートはアシュケナージ人気か京響人気かは不明だが、チケットは完売とのことである。


京都市交響楽団第596回定期演奏会

 

指揮/ウラディーミル・アシュケナージ

曲目/開演前2:10pm〜プレトーク

 

ブラームス:交響曲第2番ニ長調op.73

チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調op.64

 

 ブラームスについてはやや音がゴチャゴチャする場面があったが、さすがに京響の弦の安定性は抜群である。弦楽主体のこの交響曲ではそれがよく効いている。

 一方のチャイコは凄まじい爆演。もう開始冒頭からアシュケナージがオケを煽る煽る。結局は最後までその調子で突っ走った印象。京響のここまで荒々しい演奏は初めて聴いた気がする。それだけ荒々しくなってもアンサンブルが乱れないのはさすがだし、不思議なことに爆演になった途端に管弦のバランスも良くなった。

 それにしてもアシュケナージが爆演型指揮者とは初めて認識した。どちらかと言えば地味目の演奏が多いイメージだったのだが。それともロシアものになるとキャラが変わるのか。


 コンサートが終わると大阪まで引き返す。この新快速も異常な混雑である。京都が本格的に寒くなるまでこの調子だろうか? と言っても冬の京都というのも寒すぎて行くもんじゃないんだが。まあそれでも個人的には夏よりはマシか。夏の京都はまさに殺人的だから。

 

 天王寺まで戻ってくると、またMIOで夕食。何を食べるか迷ったあげくに「KYK」「牡蠣フライ膳(1300円)」。段々と選ぶのが面倒臭くなってきて、メニュー選択が投げやりになってきた。内容は可もなく不可もなくと言うところ。

 

 夕食を終えるとホテルに戻り、入浴してから早めに床につくのだった。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 床についたのが早めだったせいか、夜中に中途覚醒してしまって目覚めが悪い。どうも年のせいかいわゆる睡眠力が落ちているようで、中途覚醒が増えてきた。深い眠りが持続せず、眠りが浅いせいで途中で目が覚めてしまうのである。一旦そうなると、後はうつらうつらと寝ているような起きているような状態が続くので、朝になっても疲れが抜けきっていないような状態になってしまう。

 

 今日の予定は2時からの関フィルのコンサートだけ。ホテルのチェックアウト時刻が10時なので、ギリギリまで粘ったとしてもかなり時間が余る。どうしたものかと考えながら、今朝もバイキング朝食。昨日と若干はメニューが変わっているようだ。

 

 テレビを見たりシャワーを浴びたりしながら10時まで時間をつぶすとチェックアウト。さてこれからの予定だが、天保山まで出向くことにする。大阪文化館(旧サントリーミュージアム)で藤城清治の展覧会が開催されているというポスターを見かけたので、それに参加することにした。

 

 サントリーミュージアムが閉鎖になってからここに来たのは初めてだ。以前はもっと閑散としていた気がするが、かなり多くの外国人観光客がやって来ていてあたりはガヤガヤしている。ただ美術館の方はそう人が多いというほどでもない。


「光と影の芸術人 藤城清治世界展」大阪文化館で12/7まで

 

 切り絵作品で有名な藤城清治氏の初期の作品(最初期の油絵も含む)から最近の作品まで一堂に展示。さらに影絵劇場の仕組みなども見せる展示が特徴的である。

 その切り絵作品の精緻さと煌びやかさは相変わらずであるが、近年ではさらに精神性の深まりも増しているようである。特に戦争体験者である彼の平和への思いが滲み出ている作品が多く、それらは自然に胸を打つ。


 時間つぶし程度のつもりだったのだが、予想外に面白い内容であった。藤城清治氏も90才を超え、昨年は脊柱管狭窄症での手術まで受けたそうだが、まだまだ創作意欲は衰えていないようである。これからもさらなる活躍を期待したいところ。

 

 さてそろそろ昼食時である。どこで昼食を摂るかと天保山マーケットプレースをプラプラと散策したが、とにかく人が異常に多いし、どうもピンとくる店がないしということで、結局は一回りしただけで出てしまう。そのまま駅の方までプラプラと歩いて途中の和食店に入店したのだが、結果は・・・。昼食時なのに客がいないのが気にはなっていたが、それも仕方ないかというところであった。とりあえず昼食を終えるとホールへ移動。


関西フィルハーモニー管弦楽団第270回定期演奏会

 

[指揮]オーギュスタン・デュメイ(関西フィル音楽監督)

[ピアノ]ジャン=フィリップ・コラール

[管弦楽]関西フィルハーモニー管弦楽団

 

ベートーヴェン:「コリオラン」序曲 op.62

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 op.73「皇帝」

ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 op.67 「運命」

 

 いわゆるデュメイ節が遺憾なく発揮された演奏である。関フィルはデュメイが指揮すると弦の音色が全く変わって、かなり密度の高い滑らかな演奏となる。相変わらず管には弱点があるものの、弦の魅力がそれを補って余りあるというところである。

 「皇帝」についてはピアニストのコラールはテクニックを前に出してくるタイプではなく、かなり歌ってくるタイプである。ただテンポの微妙な揺れのような物を持っているので、デュメイの方が必死で合わせているような感があったが、演奏自体は安定した無難と言えるもの。

 「運命」はなかなかの熱演である。密度の高い弦でグイグイと押してくる構成が快感。これで金管がもっと安定したらさらに1グレード高い演奏になるのだが、現在のところはまずまずという印象か。


 コンサートと展覧会に明け暮れた二泊三日であったが、内容的にはまずまずの充実度あったと思う。ただそれにしても昨今の京阪地区での宿泊料の異常高騰はキツい。財政的に余裕がほとんどないことを考慮すると、今後の京阪地区遠征のあり方を考え直す必要もありそうだ。

 

 

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