展覧会遠征 東京編13

 

 この週末は東京に飛ぶことにした。東京は先月遠征したばかりだが、実はこの週末の東京遠征の方が先に決まっており、先月の東京遠征はシカゴ響の演奏会の決定で急遽予定が組まれたというのが真相だったりする。

 

 今回の東京遠征の目的は都響のライブ。都響のライブは以前に大阪公演を聴いただけだが、さすがに都響は上手いということを感じたので是非とももう一度ライブに行きたいと考えた次第。それが先月の急遽の東京遠征の際に都響のライブを日程に組み込んだので、今回の遠征は最初から趣旨が曖昧になってしまっている。そこで都響のライブだけでなく、他のライブも組み込んで三連チャンということにした。

 

 なお今回の移動には飛行機を使用した。これはANAのマイルが貯まっていたことと、スカイマークの方が新幹線よりも安いという理由から。とにかく今年になってから私の財政状態は危機的であり、少しでも経費は削減したいところである。

 

 金曜日は午前中に仕事を終えると神戸空港まで車で移動する。神戸空港は赤字垂れ流しだというのに駐車場は一杯で驚く。もし空港まで来て駐車場が空いていなかったら難儀なところだった。

 

 空港で遅めの昼食を摂るとスカイマークの羽田便に乗り込む。機内は満員の上に大量の手荷物を持ち込んでいる客が多いので、荷物の収納に手間取って出発が遅れる。スカイマークの客層は相変わらずのようだ。

 

 結局は羽田への到着は30分ほど遅れることになる。途中で気流の乱れでかなり揺れたのであまり気分が良くない。しかしそんなことにかまってもいられない。京急と地下鉄を乗り継いでサントリーホールへと急ぐ。

 

 六本木一丁目の杵屋で夕食にカツ丼を食ってからホールに駆けつけたのはちょうど開館時刻の6時半。場内はかなり入っている。

 


東京フィルハーモニー交響楽団第874回定期演奏会

 

指揮:チョン・ミョンフン

ピアノ:小林愛実

東京フィルハーモニー交響楽団

 

モーツァルト: ピアノ協奏曲第23番 イ長調  K488

マーラー: 交響曲第5番 嬰ハ短調

 

 予定ではチョン・ミョンフンの弾き振りのはずだったが、指の故障とのことで急遽ピアニストが小林愛美に変更になったらしい。小林の演奏だが、やけにネットリとした演奏という印象だ。モーツァルトのピアノ協奏曲23番は特に2楽章がやや哀愁を帯びたメロディなのだが、それを徹底的に謡わせてくる。やや表情過多とも感じられるような濃厚な演奏。ただバックのオケは結構淡々とした演奏なので、必ずしもかみ合っているとも言い難いところがあった。個人的にはモーツァルトのピアノ協奏曲はもっと透明感のある軽やかな音色の方が好みである。なお小林の特徴が最大限に発揮されたのがアンコールのショパンのノクターン20番。これもやや哀愁を帯びた曲調だが、それをメロメロのメロドラマに仕立てた印象。表現力が豊かとも言えるが、一つ間違うと下品になりかねない。

 マーラーの5番の方は冒頭のトランペットからしびれた。分厚い金管の響きの上に安定した弦を重ねたドッシリとした演奏。またチョン・ミョンフンの指揮も決して煽らずにじっくりと緊張感を持って曲を進めていく。またピアニッシモが非常に聴かせる演奏になっており、静寂感を巧みに使用した非常にダイナミックレンジの広い演奏。東京フィルの演奏も非常に安定した立派なものであり、最後まで緊張感が途切れることなく持続した。演出過剰になることがなく、むしろ抑え気味の演奏であるのだが、密度の濃さと張りつめた緊張感によって感動的な快演となっていた。


 かなりの名演であり、会場内もスタンディングが多数現れるぐらいの盛り上がりであった。私はサントリーホールでのこれだけの盛り上がりは初めて見たが、今まで東京フィルについては「可もなく不可もなく、しかし個性もなく」という印象を持っていたので、東京フィルがこれだけのレベルの演奏を行えることにも驚いた。

 

 ライブを終えると東京での定宿であるホテルNEO東京に移動する。大浴場で入浴すると、明日に備えて就寝することにする。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は8時半頃に起床すると着替えて外出。今日は日フィルのライブに行く予定だが、その前に美術館を回ろうと思っている。最初は久しぶりに訪問する美術館。


「勝川春章と肉筆美人画」 出光美術館で3/27まで

 

 役者絵の浮世絵などで知られ、北斎などの多くの弟子もいた勝川春章は、晩年には肉筆による多くの精緻な美人画を残している。その春章の肉筆美人画を浮世絵の流れの中で概観する展覧会。

 春章の肉筆画は古典を下敷きにしつつも、その中で独自の表現や世界の確立を目指したものであり、当初は個性の薄い感があったのだが、


 出光美術館を後にすると次はサントリー美術館を目指す。日比谷から六本木に移動。ここからミッドタウンに向かうのだが、その前に遅めの朝食兼早めの昼食というところで「えん」「漬けマグロの茶漬け(800円)」を頂く。朝食には最適のメニュー。

 腹が膨れたところでミッドタウンまで歩いていく。


「没後100年 宮川香山」 サントリー美術館で4/17まで

 明治時代を代表する陶芸家である宮川香山の作品を集めた展覧会。

 彼のもっとも知られる作品は高浮彫と言われる精密な彫刻を陶器の表面に施した作品であるが、今にも動き出しそうなそのリアルさには唖然とさせられるものがある。しかもいわゆる彫刻でならこのレベルのリアルな作品を見ることはあるが、彼の場合はそれを陶器で行っているということ。陶器は焼成が入るために歪んで割れることがよくあるはずなのだが、どうやってその問題を解決したのかが私には想像できない。

 彼は非常に研究熱心で、釉薬の類いについても細かい研究を重ねていたという。その研究成果が反映して、高浮彫以外の普通の陶器作品でもうっとりするような鮮やかな色彩が多々見られる。

 とにかく「超絶技巧」と呼ぶにふさわしい作品であり、その技術力にはひたすら圧倒されるばかりであった。


 これはなかなか堪能した。香山の超越技術には唖然である。とにかく昔の職人にはとんでもない者がいる。

 

 展覧会を堪能したところでお茶にしたくなった。「加賀麩不室屋」で生麩のぜんざいを頂く。もっちりした生麩が最高。至福の一時である。

  

 お茶を済ませたところでもう一カ所だけ美術館に立ち寄ることにする。地下鉄で渋谷に移動すると、安藤忠雄のせいで滅茶苦茶になった地下通路を抜けて駅東のバス停へ。それにしてもここの通路は何回通ってもわけが分からない。東急の駅の中はさらにとんでもないことになっているのだから、さすがにどんな建物でも使い物にならない大馬鹿建築にしてしまう安藤忠雄の破壊力は侮れない。


「ゆかいな若冲・めでたい大観」 山種美術館で3/6まで

  

 表題には若冲と大観が掲げられているが、実際にはその両者にこだわらず松竹梅や七福神などのおめでたい題材を扱った日本画の展覧会である。

 若冲の作品については表題の「ゆかいな」という言葉がそのままで、やたらに奇想を誇示する作品ではなくのびやかで楽しげな作品が展示されている。細かいことはゴチャゴチャ言わずに楽しむが正解なんだろう。


 これで展覧会の予定の方は終了。今日のコンサートは渋谷のオーチャードホール。なおコンサート終了後には映画を見るつもりでもうチケットは手配している。時間的にコンサート後に夕食を摂っている暇がないので、遅めの昼食券夕食第一部として「横浜家系ラーメン道玄家」「つけめん」を頂く。

  

 軽く腹を満たしたところでオーチャードホールに入場する。オーチャードホールはかなり大きなホールである。ただその大きさが災いして明らかに音響が悪い。天井は高すぎるし、ステージの奥が深すぎるのもコンサートホールとしては致命的。ステージ内での残響ががまともに来ないところにステージ背後から時間差の残響が来るので、音色全体が濁る上にとにかく「音が飛んでこない」という印象が強いホールだ。これはNHKホールとはまた違ったタイプでの最悪ホールである。


山田和樹 マーラー・ツィクルス <第2期 深化>第5回

 

指揮:山田和樹[日本フィル正指揮者]

ヴィオラ:赤坂智子

日本フィルハーモニー交響楽団

 

武満徹:ア・ストリング・アラウンド・オータム

マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調

 

 山田和樹のマーラー・ツィクルスの第5弾。図らずしも2日続けてのマーラーの5番になってしまった。

 昨日のチョン・ミョンフンの演奏は強弱のメリハリが強い演奏であったが、山田の指揮はテンポのメリハリをつけており、とにかく全体のテンポをドッシリと落としながら、フォルテッシモに合わせてテンポも上げてくるというタイプの大時代的な演奏である。

 ただどうしても昨日の東京フィルと比べると日フィルの演奏に甘さがあるし、山田の指揮もギリギリまで緊張感を保てないところがあり、全体としてはどことなくぬるさを感じる。悪い演奏とまでいう気はないが、どことなく精彩を欠く印象の弱いものであったことは否定できない。

 なお一曲目の武満は明らかに私の好みではなく退屈な曲。メロディに所々美しさは感じるのだが、曲自体に盛り上がりがない。


 コンサートを終えると映画館に急ぐ。地下鉄を乗り継いで六本木ヒルズを目指すが、現地に到着してから映画館の位置が分からずにウロウロする羽目に。それでも何とか上映開始に間に合った。

 


「スターウォーズ/フォースの覚醒」 TOHOシネマ六本木ヒルズにて

 

 相変わらずの冒険活劇で、さすがに見せ所はよく分かっていると感じる。それにしても最後には惑星一つ吹っ飛ばすのはこのシリーズのお約束なのか? なお今回は新世代へのストーリー引継という要素が強いので、新キャラに加えてかつてのキャラも登場するのだが、さすがにハン・ソロ爺さんや、すっかりオバサンになっているレイアなどがもの悲しい。ルークも最後にチョロッと出るが、これもほとんど第一作のオビワン・ケノービ。これはスクリーンのこっち側にも年をとったことを嫌でも痛感させることになっており、50のオッサンには少々ツラい。

 今回の悪役はハン・ソロとレイアの息子。誘惑に弱いスカイウォーカー家のご多分に漏れず、彼もフォースの暗黒面に魅入られてしまったという次第。この息子が完全武闘派の親父の血を引いていると思えないような、いかにも神経質そうな芸術家タイプの優男でしかもヒステリー持ち。万年厨二病のダースベイダーよりもさらに軟弱なタイプであるので、悪の総帥という迫力は皆無。

 ルークは彼を自分の後継に育てていたようだが、彼が暗黒面に落ちてしまったことですべてがご破算になってしまい、失意と責任感の呵責から行方をくらましたとか。しかしこのルークが行方をくらましたせいで宇宙を巻き込む大騒動になっているのだから、スカイウォーカーの血筋というのはつくづくお騒がせである。よくよく考えると、スターウォーズというのは宇宙全体が迷惑なスカイウォーカー家に振り回されるだけの話のような気もしてきた。そもそもの不幸の始まりはクワイガン・ジンがアナキン坊やに目を付けてスカウトしたことだったということか。なお今回のヒロインは最後まで素性が明かされなかったが、あれだけ強力なフォースを持っているということはルークの娘辺りか。

 文句なく面白い映画ではあるのだが、そろそろワンパターン化も見えてきている。そういう点では、主人公の一人が敵の裏切り者というのはなかなか斬新なパターン。全く無個性の白マスク軍団が実は個性ある人間であるという観点は新しい。もっとも村人を殺すことに抵抗を感じて脱走した彼が、かつての同僚を撃つことに何のためらいも見せてなかったのは少々「?」だったが。


 ところで今回初めて3D映画というものをみたが、正直なところ無用の長物に感じられた。特にSFの場合は作り物の映像だけに立体感が不自然な場合が多く、看板絵の背景の前でこれまた看板に書いたキャラが突っ立っているように見えるシーンもあり、これだとむしろ逆効果ではないかと感じた次第。3D映像については登場当初から「次に映像が向かうべき方向はこれではない」と感じているのだが、その想いが強くなっただけ。

 

 映画を見終わるとホテルに戻る前に夕食を摂ることにする。ヒルズの地下の飲食店街に行き、今朝朝食を摂った「えん」の斜め向かいにある「豚組食堂」に入店。ここはブランド豚なども扱う高級トンカツ店のようだ。名前を忘れたが静岡のブランド豚のロースがあったのでそれを頂く。なかなかに脂身のうまい良いカツであるが、これで2900円はさすがにかなり高い。

 夕食を終えるとホテルに戻って入浴後に就寝。今日は朝から夜まで出ずっぱりでかなり疲れた。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は8時過ぎに起床。今日は都響のコンサートだが、その前に映画を見に行こうと昨晩の内にチケットを確保している。ホテルをチェックアウトすると映画館のある渋谷に向かうが、途中で品川駅でキャリーをコインロッカーに放り込んで身軽になる。

 

 渋谷のTOHOシネマは駅のすぐ近く。方向さえ間違わなかったら簡単に到着できるところにある。


「オデッセイ」 TOHOシネマ渋谷にて

 

 火星探査に向かった一行が嵐に遭遇して急遽脱出となるのだが、その時に飛ばされた一人が取り残されてしまうという物語。残された飛行士のサバイバルドラマである。

 と言ってもサバイバルという言葉から想像される凄まじさや悲愴さは微塵も感じさせない。とにかく主人公は悪態つきまくりにもかかわらず、常に前向きでアイディアマンであることが最大の特徴。だから話に暗さが全くない。この辺りはいかにも健全なアメリカンエンターティーメントというところか。

 ちなみに主人公たちの危機に際して協力を呼びかけてくるのが中国というのが今日的だった。「メテオ」の頃ならソ連だったのだが。日本の存在が全く無視されているのが日本人としては少々悲しいところ。

 国内では「宇宙兄弟」とコラボしたキャンペーンを行っていたようだが、確かにもろもろな点でこの主人公はムッタと被る部分がある。また技術面に関する描写がリアルなところもあの作品と被る。「スターウォーズ」のような全く荒唐無稽な宇宙ものから、こういうリアル路線までの幅広さはさすがにアメリカらしくはある。


 映画を見終えるとすぐにサントリーホールに移動する。昼食は例によって「杵屋」でうどん。

 


都響プロムナードコンサートNo.366

 

指揮 大野和士

 

ベルリオーズ:序曲『ローマの謝肉祭』 op.9

ドヴォルザーク:弦楽セレナーデ ホ長調 op.22

チャイコフスキー:イタリア奇想曲 op.45

ラヴェル:ボレロ

 

プロムナードコンサートと言うことで短めの曲が中心であるが、それでもやはり都響の演奏技術の確かさは感じられる。弦楽セレナーデの安定したしっとり聴かせる音色はさすがであったが、休憩後のイタリア奇想曲の華々しい金管の音色なども冴え渡っていた。

 ボレロは全く同じ旋律を徐々に盛り上げながら繰り返すだけの単調な曲であるが、それでも聴かせるのはラヴェルのオーケストレーションの名人技によるものだが、これはオケの技術も確かでないと破綻するもの。やはりそういう点でも都響の演奏の安定感は抜群であった。

 プログラム的に「感動する」というような内容ではないのであるが、過不足なく楽しむことが出来るというコンサートであった。


 これで今回の遠征での全コンサート予定は終了したが、まだ帰りの飛行機の時間までに余裕がある。そこで地下鉄で最後の美術館に立ち寄ることにする。

 


「サイモン・フジワラ ホワイトデー」オペラシティギャラリーで3/27まで

 ガランと広い会場内にいかにも現代アートな展示がいくつか並んでいたが、私としてはあまり興味を持てない作品が多かったのは毎度のこと。明らかに兵馬俑のパロディだなと分かる作品ぐらいか、印象に残ったのは。


 これで本遠征の全予定が終了である。羽田に移動することにするが、その前に夕食は摂っておきたい。品川駅でキャリーを回収すると駅ナカで夕食を摂ることを考えたが、どうも適当な店がない上にどこも異常な混雑。どっちみちここで京急に乗り換えるのだからと一旦駅から外に出ることにする。

 

 品川駅周辺をプラプラするが、例によって東京の常でこれという店が見当たらない。面倒臭くなってきたことあって、結局は「つばめグリル」に入店して「ハンバーグ」を食べることに。

  

 例によっての可もなく不可もなくの内容。ついでだから「カボチャのプリン」をデザートとして頂く。しっかりしたプリンで悪くないのだが、カラメルの苦みが強いのが私の好みと少しズレる。

 夕食を終えると京急で羽田空港に移動。空港に到着すると出発ゲートが大混雑しているので早めに荷物検査を終えるためにすぐに行列に並ぶことに。

 

 結局この日はANAの神戸便で神戸空港へと戻ってきたのであった。気象のせいかパイロットの腕かは確かではないが、往路のスカイマーク便に比べると明らかに機体の揺れが少なかったことが印象に残ったのであった。

 

 

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