展覧会遠征 東京編15

 

 この週末はコンサートと美術館を絡めて東京遠征。どうも最近は東京づいている私である。

 

 まず最初に立ち寄るのは例によっての上野の美術館。

 


「バベルの塔」東京都美術館で7/2まで

 ブリューゲルの代表作であるバベルの塔を中心に、ヒエロニムス・ボスなど中世からのネーデルラント絵画を紹介。

 実質的に「バベルの塔とその他諸々展」と言ったところ。中世の絵画は例によってどことなくバランスが悪かったり、デッサンがおかしかったりという類いの奇妙なもの。ボスの作品については奇しくも先週に兵庫県立美術館で見た作品群ともろに被る。結局は傑出していて目を惹くのはブリューゲルの作品のみで、それも「バベルの塔」に二階のワンフロアをまるまる使用しているという特別扱いぶり。

 とは言うものの、この作品はこれ一点だけでも入場料の価値を感じさせる逸品である。超緻密に描き込まれた絵画には唖然とさせられるし、塔の現実味のない巨大さには圧倒されるところ。


 観客が大勢押し掛けていて大盛況であった。次は国立博物館へ。こちらの出し物は以前には全く興味なかったのだが、最近になって某マンガの影響でにわかに興味が湧いた分野である。

 


「茶の湯」東京国立博物館で6/4まで

 

 室町時代に茶道として文化の一ジャンルとして確立した茶の湯を、その時代を代表する名品などを中心に紹介する。

 初期は中国からの輸入品を用いて行われていた茶の湯であるが、日本独自のわびさびの精神を確立したのが千利休。黒茶碗などに象徴される渋い好みが一番の特徴。

 千利休の高弟で時代を担うのが古田織部だが、彼の趣味に関しては千利休の佗茶から端を発しているとは思えないほどに独特のものがある。幾何学的デザインや歪んだ器など、現代にも通じるアバンギャルドな個性的な作品群が登場する。これらは桃山時代の自由な気風と合致していたのであろう。

 幕藩体制が固まってきたところで登場するのが、小堀遠州などのきれいさびと呼ばれる趣味。織部の頃のような自由奔放さは影を潜め、均整の取れた美しい器が中心となる。

 なかなかに時代の背景を映していて面白くあるのだが、やはり私的には千利休と古田織部の辺りが一番興味をそそられるところ。特に織部の奇想には今でもギョッとさせられることがある。

 織部の茶室


 美術館を回り終えるとコンサートである。今日はオペラシティで開催される東京交響楽団のコンサートに行くことにしている。上野からJRと地下鉄を乗り継いで初台へ。昼食はオペラシティ近くの「築地食堂源ちゃん」「アジフライ定食」を頂く。


東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第98回

 

ロベルト・トレヴィーノ(Cond)、前橋汀子(Vn)、東京交響楽団

 

・サティ/ドビュッシー編:ジムノペディ第1番、第3番

・ショーソン:詩曲 op.25

・サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ op.28

・ラヴェル/M.コンスタン編:夜のガスパール(管弦楽版 日本初演)

・ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

 

 前橋汀子のバイオリンは初めて聴くが、大ベテランのはずであるが未だ衰えずという印象を受ける。決して音色は強くは感じないのだが、その割には深くて重みがある。なかなかの好演。

 トレヴィーノの演奏はかなり色彩豊かで華々しい演奏。その演奏がラヴェルなどに非常にマッチしているが、メインの火の鳥がなかなかの圧巻であった。


 コンサートを終えると上野へ。今日の宿泊ホテルは例によって南千住のホテルNEO東京なので、上野で夕食を取るつもり。ところで上野はバベル一色である。上野駅の飲食店はあちこちでバベル盛メニューを販売中。しかし何だこれは?

  

ラーメン屋もイタリアンレストランもみんなバベル盛

 夕食を摂る店を探してウロウロ歩き回っていると不忍池にたどり着いたのでしばし辺りを散策。上野にはしょっちゅう来ていたが、ここに来たことは実は一度もない。東京の真ん中でこんな池が未だに埋め立てられずに残っているということにどことなく不思議な気持ちを抱かされる。しかしこのような池が一つあるだけでも辺りの気温が変わる。

 不忍池の周辺をプラプラと回っていたら「伊豆栄」なるどことなく雰囲気のある鰻店を見つけたのでここに入店。「鰻重の松(2700円)」を注文する。

  

 江戸前の柔らかい鰻がなかなかにうまい。私は関西人だが、以前から江戸前の蒸した鰻も好む者である。この柔らかさは江戸前ならでは。さっぱりした味付けが私好みでもある。味も焼きも抜群のなかなかに上質なうなぎである。

 

 ところで、松竹梅とある時は大抵は梅が一番安いのだが、この店は逆だった。これは何か意味があるのだろうか?

 

 満足してぜいたくな夕食を終えるとホテルにチェックインする。今日は外の暑さにかなり当たられて疲労が溜まっている。明日もコンサートがあるので入浴して足の疲れをほぐすと早めに就寝することにする。

  

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は7時頃に目が覚める。両足を始め全身に疲労感が残っている。私も年かな。

 

 そのままチェックアウト時刻の10時前までホテルの部屋でゴロゴロ。遅めの朝食は上野駅の駅ナカで摂り(そばとネギトロ丼のセット)、昨日行き残した博物館へ立ち寄る。

 

 会期末が近いせいか、それとも出し物が人気あるのかが不明なのだが、博物館の前は長蛇の列で、入場整理券を配っている状態。私は入館まで30分ほど待たされることに。

 


「大英自然史博物館展」国立科学博物館で6/11まで

 

 大英自然史博物館から、始祖鳥の化石を初めとする貴重な品々が多数展示されている。化石から生物の標本、鉱物資料、さらには宝石まで内容は多彩。


 標本を見に行ったのだか、人の背中を見に行ったのだか不明な状態。しかも館内撮影可なので、皆が撮影のために滞在時間が長くなる。展示の目玉と言える始祖鳥の化石の周辺はさらにひどい人だかりで、それに突入して標本を見るだけでどっと疲れてしまった。結局は残念ながらあまりじっくりとは見学できず。

  

始祖鳥の化石を見るためには、この人垣をかき分ける必要があった

 これで上野での予定は終了。地下鉄で六本木に移動する。次の目的は成金ヒルズで開催されている展覧会。それにしても何回来てもこの周辺に張り巡らされている成金結界は苦手だ。この成金結界を破るためには私自身が金持ちにでもなるしかないのだが、それはまず絶望的だし。

 


「大エルミタージュ美術館展」森アーツセンターギャラリーで6/18まで

 エルミタージュ展は今まで毎年のように様々な趣旨で開催されているが、今回はオールドマスターということで、ルネサンス期などのヨーロッパの巨匠の作品を展示である。地域別に網羅的に展示してある。イタリアはティツィアーノ、オランダはレンブラント、フランドルがブリューゲル(息子)にルーベンス、フランスがシャルダンにフラゴナール、ドイツがクラーナハといった具合。

 結果としては私の目から見ても好ましい作品が多数ということになる。特にムリーリョが3点も展示されていたのが私にとっては一番の収穫。圧巻の技術を堪能したのである。


 今回の展示の中では私的にはムリーリョが白眉と感じたのだが一般の認識はそうでないらしく、ミュージアムショップを覗いてもムリーリョは絵葉書こそあるがポスターはなし。やっぱり私の趣味は偏ってるのかな。

 

 展覧会を見終えた頃にはコンサートの開演時間が迫ってきたので、ヒルズの地下で「ワタリガニのクリームパスタ」を腹に入れるとホールのある渋谷に急ぐことにする。今日のコンサートはオーチャードホールで開催される日フィルの公演。山田和樹のマーラーチクルスの第8弾で、今回はマーラーの8番。そもそも今回の東京遠征はこれを聴くためにきたものであり、本遠征の最大目的である。

 

 チケットは完売とのことで、ホールの中も満員である。この曲を演奏する時は演奏者の配置に苦労するのだが、オーチャードホールの無駄に広いステージは数百人の合唱団も問題なく並べることが出来ている。

 


山田和樹マーラー・ツィクルス<第3期 昇華>第8回

 

指揮:山田和樹[正指揮者]

ソプラノ:林 正子、田崎尚美、小林沙羅 

アルト:清水華澄、高橋華子

テノール:西村 悟 

バリトン:小森輝彦 

バス:妻屋秀和

合唱:武蔵野合唱団、栗友会、東京少年少女合唱隊

 

武満 徹:星・島(スター・アイル)

マーラー:交響曲第8番《千人の交響曲》

 

 出だしから音がゴチャゴチャとして首を傾げることになる。どうもオーチャードホールの奥に深すぎるステージが災いしているようである。プレトークで山田和樹が「合唱団の雛壇が20メートルほどある」というようなことを言っていたが、それが災いしてコンマ0何秒かの時差が出ているように感じられる。元々オーチャードホールは背後に反響した音がコンマ0何秒か遅れで被ってくるという難儀な音響特性を持っていることから、これらが相互作用してゴチャゴチャした印象になってしまったのではないかと推測する。

 山田の演奏自体はなかなかに美しい音色を響かせる部分があるのだが、以前から感じているように時々緊張感がぶち切れてしまう部分があるのが気になるところ。端的に表現すると「眠い」のである。この辺りは完全に好みの領域も入ってくるのだが、どちらかと言えば緊張感のある演奏を好む私としては、この温さは少々つらいところ。


 演奏終了後は場内は熱狂的な大歓声だったが、私は残念ながらそこまでは熱狂できなかった。確かにラストのバンダも加わっての音響スベクタクルはなかなか良かったが。

 

 なぜか昨年から今年にかけてマーラーのこの珍しい曲のライブ演奏が相次ぎ、私は勢い4回聴くことになったのだが、その中で序列をつけると東響>京都市響>日フィル>N響というところか。なおこれは純粋に演奏の内容だけでなく、多分にホールの音響にも影響されているとは思う。響きが皆無のNHKホールでは宇宙が鳴動どころか全く音響スペクタクルとならず、パーヴォのクールな演奏がさらに寒々しくなったのを覚えている。一方でトリフォニーでは天界のラッパにゾクゾクしたのが記憶に生々しい。今回の演奏もラッパはまあ良い線を行っていたのだが。

 

 これで本遠征のスケジュールは終了。帰宅することにする。東京駅にまで移動するべく山手線に乗車したが、途中でどこかにの馬鹿が線路内に入り込んだとかで山手線が一時運休、慌てさせられことになるのだった。危うく東京名物人身事故に遭遇するところだった。結局は東京駅で夕食を摂る間もなかったので、この日の夕食は東京駅で購入した牛肉弁当になるのである。

 

 

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