展覧会遠征 京阪編13

 

 この週末は大阪方面で外来オケを中心のコンサート三昧である。まずは金曜日のウィーンフィル。ほぼ毎年のように来日して円を稼ぎまくっているウィーンフィルだが、今年はメストが率いてブラームスを演奏とのこと。

 

 金曜日の仕事を早めに終えると大阪に直行する。ホールに行く前にまずは夕食を摂る必要がある。いつものように大阪駅前第1ビル地下辺りをウロウロするが、どうもピンとくる店がない。ラーメンとかトンカツの類いをガッツリ食うという気分でもないことからあてもなくしばし放浪、そこで見かけた「グリル北斗星」に入店する。

   

 と言っても揚げ物類をガッツリ食べる気分でもないので、結局は注文したのは「オムライスのセット」

 サラダとスープはまあ普通。オムライスは今時の卵焼きを乗せているだけのものではなく、古典的に卵で包んでいるもの。私は断然こちらの方が正統派だと考えている。味はまずまず。ただもう少し具が欲しいところ。

 

 夕食を済ませてたところでホールに向かう。私の席は当然のように3階席。ウィーンフィルクラスになるととてもではないが1階席には手が出ない。私もいつかはウィーンフィルの1階席を迷わず購入できるような身分になりたいと考えていたが、それは叶わぬことであることはほぼ確定してしまった。人生とは無情なもので、多くの者にとっての人生とは、叶わない夢を諦めていく過程のように思えてならない。


ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

フランツ・ウェルザー=メスト指揮

ピアノ:ラン・ラン

 

モーツァルト:『魔笛』から「序曲」

      :ピアノ協奏曲 第24番

ブラームス:交響曲 第2番

 

 最初は12編成という小編成で始まる。魔笛に関してはまとまりの良い演奏。

 モーツァルトのピアノ協奏曲についてはラン・ランの甘美なピアノ演奏が冴える。過度に表情をつけることはなく意外に淡々としたところもある演奏なのだが、それにも関わらずあくまで音色は甘い。アンコール曲にその傾向は顕著に現れ、この演奏だけで魅了された女性観客も少なくなかろうと思われる。

 ブラームスでは16編成に拡大し、もっとドッシリとした演奏を聴かせる。ただそうなっても決して音色が重くはならないのがウィーンフィルの特徴か。あくまで明るくて上品で優雅である。メストの指揮も外連のない正攻法なもので過度な煽りがない。ややそれが災いして、美しくて上品だがやや中庸で表層的に聞こえた部分もなきにしもあらず。

 アンコールはウィンナワルツが2曲だったのだが、これが驚いた。本領発揮とばかりに煌びやかで生き生きとした音色でガンガン演奏を始めたからである。まさに本場のウィンナワルツと言わんばかりの素晴らしい演奏で、これには心底魅了された。


 正直なところ、本命のブラームスよりもアンコールの方が堪能できたというコンサートであった。あのウィンナワルツに関してはさすがにウィーンフィルであった。ただあまりに料金が高すぎるのはどうにも。3階席の奥から2列目にも関わらず2万円を超えるというのは私にはあまりにつらい。

 

 この週末は大阪に宿泊してコンサートをはしごする予定。コンサートを終えるとホテルに入ることにする。今日の宿泊ホテルは新今宮のホテルサンプラザ2ANNEX。例によっての宿泊料優先のチョイス。とは言うものの、この界隈では中の上クラスぐらいのホテルになる。チェックイン手続きを済ませると、とりあえず部屋に荷物を置いてから少し外出する。やはりこの時間になって小腹が空いてきた。

 

 結局はホテル近くの「親子寿司」に入店して寿司を5皿ほどつまむ。ここはカウンターに握ってある寿司が並んでいて、それを適当に取って食べる形式。謂わば回らない回転寿司。これで支払いは1450円。この界隈だとこんなものか。寿司の味は普通。

   

 小腹を満たして帰ってくると、軽くシャワーで汗を流してから就寝する。とにかく疲れた。最近は睡眠障害気味で早朝覚醒や中途覚醒はあるが、寝付きだけはやたらに良いのである。

 

☆☆☆☆☆

 

 

 翌朝は目覚ましをかけていなかったのだが8時過ぎに目が覚める。安ホテルなので例の「ホワイトノイズ発生器」はセットしていたのだが、さすがにこのぐらいの時刻になると、これではカバーできないようなドスンバタンという大きな音があちこちから聞こえてくるようになるのである。

 今日の予定だが、メインはザ・シンフォニーホールで開催されるサンクトペテルブルグフィルの演奏会。元々はテミルカーノフの指揮のはずだったのだが、彼が実兄の急逝によるしショックで体調を崩してしまったらしく、指揮者は副監督のアレクセーエフに急遽変更という次第。日本ではほぼ無名の指揮者だけに「払い戻せ」とブーブー言っている客も少なくないようだが、私はテミルカーノフに対してそこまで思い入れもないのでどちらかと言えば野次馬気分。

 

 公演は14時からなので、それまでは別のスケジュールを。ホテルから10時頃出かけるとまずは天王寺に移動。とりあえずここの美術館が最初の立ち寄り先。


「エッシャー展」あべのハルカス美術館で

  

 エッシャーと言えばモザイク画やだまし絵の類いばかりが有名だが、それ以外の作品もあり、それらの作品は後の彼の作品にもつながっている。と言うわけで本展ではエッシャーの初期の作品や人物画、風景画なども併せて展示してある。

 ただ彼の風景画などは立体に関する執着が尋常でないことを覗わせていて、結局はすべてあのだまし絵につながってしまうわけなのであるが・・・。


  

 ハルカス美術館の次は肥後橋まで移動。フェスティバルホールに立ち寄る・・・のではなく、目的は隣の建物の美術館。ただしその前に昼食を先に摂ることにする。フェスティバルゲートの地下で「キッチンジロー」に入店。ランチのセット(ハンバーグ+牡蠣フライ)を頂く。なおここの店はフェスティバルカード会員にはドリンクのサービスがある。

   

 箸で食べる洋食という典型的町の洋食屋のスタイル。味付けもいかにも町の洋食屋で私好み。スープならぬ豚汁がついているのも良い。

 

 昼食を終えると向かいの建物に。ここの美術館の開館記念コレクション展の第4弾である。


「 珠玉の村山コレクション 〜愛し、守り、伝えた〜 」W ほとけの世界にたゆたう 中之島香雪美術館で12/2まで

  

 コレクションの中から仏像・仏画の類いを展示。

 製造国が不明の仏像もあったが、以前に東京国立博物館で見た韓国国宝の半跏思惟像に姿勢も表情もよく似てるなと思ったら、やはり朝鮮製だと思われるとのことだった。この他にも中国の石仏などもあったが、こちらもやはり顔立ちが中国人風。こういうところにもお国柄が出るんだと妙に感心した。


 

 仏画もあるのでいわゆる地獄図などもあるのだが、浄玻璃鏡や赤銅を飲まされている亡者やら何が起こっているのかがよく分かってしまう自分が何とも。

 

 これで本日の美術館方面の予定は終了。後はホールへ移動だが、まだ開演時間まで余裕があるので途中で「つる家」に立ち寄って抹茶パフェで一息入れてからにする。

 

 一息入ったところでホールに移動する。今回は急遽の指揮者変更などと言うドタバタがあったせいか、会場の入りは6割というところか。やや寂しいものがある。

 


サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

 

[指揮]ニコライ・アレクセーエフ

[ヴァイオリン]庄司紗矢香

 

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47

チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 op.64

 

 庄司のバイオリンはやや線の細さを感じるが、技術が高い上に非常に美しい音色を出すという印象。アレクセーエフはオケがその音色をかき消してしまわないように、神経を使ってバランスを取っていたように思われる。いささか繊細であったが、この曲の曲想と合致した美麗な演奏であった。

 さてアレクセーエフの真価が問われるのがチャイコの5番であるのだが、彼はロシアによくある爆演型の指揮者ではなく、細かいところに気をつけてオケ全体をまとめていくタイプの指揮者であることが感じられた。サンクトペテルブルクフィルは17編成と言った超巨大編成の上にかなりのパワーを秘めたオケであるが、それを決して暴走させずに綺麗な音色でまとめて鳴らさせている。下手なオケだと退屈な演奏になる可能性があるが、このオケぐらいのレベルになるとこういう演奏もあり。力強いと言うよりも非常に美しいチャイコフスキーであった。

 彼は副音楽監督とのことなのだが、日常的にオケに一番接しているのは彼ではないのかというのが感じられた。どことなくオケとツーカーの空気があり、それが演奏の安定感につながっていたように思われる。


 

 期待していた以上の演奏だったと思う。ただアレクセーエフは終始「テミルカーノフの代役」ということを意識していた節があり、なんとなく自分を抑えていた風が覗える。演奏もどことなくテミルカーノフ風だし、アンコールの時などは「今日の好演は私の功績ではなくてオケがすごいからですよ」とアピールしているようにも覗えた。テミルカーノフが引退するなどして、肩書きから副が取れて彼の時代が来てもっと自分を前に出したら、かなり良い指揮者になるような気がする。私としては、例えばこの前のスヴェトラーノフオケなんかを振らしてみたい。

 

 コンサートを終えたところで一旦新今宮まで帰ることにする。実はこの後はなんばパークスシネマでMETライブビューイングの「サムソンとデリラ」を見るつもりで既にチケットを手配してある。ただこれの上映が18時半からなので2時間ほどまだ余裕がある。そのうちに夕食を取っておこうという考え。なんば辺りの店は全く知らないし、どうせ高いところばかりだろうしということで、今やホームグラウンドになりつつある新今宮で夕食を摂っておこうというわけである。

 

 まだ5時前だというのに「八重勝」などはもう長い行列が出ている。私が目指した「てんぐ」は幸いにして行列がはけた直後。待ち時間なしで入店できる(私が入店した後にはすぐに行列が出来ていた)。入店するとコーラを頼んで、串カツを適当に15本ほど。これで支払いは2500円ほど。これが妥当と考えるのが今の私の金銭感覚なので、これでは梅田やなんばではなかなか食事は出来ない。

 

 串カツで腹を膨らませるとなんばまで移動する。しかしたどり着いたなんばパークスは独り者のオッサンを寄せ付けない強烈な結界が張られているのを感じる。毒の沼地のような結界の中を体力と精神力を削られながらパークスシネマに向かうことに。

独身のオッサンを寄せ付けないための結界の数々
 

 パークシネマに到着したのは入場40分ぐらい前。というわけで、今この原稿をベンチに座って入力している(笑)。私もいよいよ怪しいライター化してきている。

 


METライブビューイング サン=サーンス「サムソンとデリラ」

 

指揮:マーク・エルダー

演出:ダルコ・トレズニヤック

出演:エリーナ・ガランチャ、ロベルト・アラーニャ、ロラン・ナウリ、ディミトリ・ベロセルスキー、イルヒン・アズィゾフ

 

 サン=サーンスのオペラは初めて聴くのであるが、初っ端から派手派手な音楽には圧倒された。サン=サーンスの音楽は色彩的と言われていることは知っていたが、恥ずかしながら彼の曲は交響曲第3番と動物の謝肉祭ぐらいしか知らないので、このようにオペラの大作を耳にして初めて実感した次第。

 その派手な音楽に乗せて圧巻の歌唱が繰り広げられるのはさすがにMET。サムソンのロベルト・アラーニャは初っ端から力強いテノールでガンガンと来る。デリラの誘惑に悩むシーン、裏切られてどん底に落とされるシーンなど感情表現も豊かで堂に入っている。一方これに絡むデリラのエリーナ・ガランチャも素晴らしい。策略によってサムソンを誘惑しつつ、その中に一片の彼への愛情からの迷いも覗えるという表現が実によく現れていた。


 

 サン=サーンスのオペラがこんなに凄かったとは知らなかった。どうもこの世界も私のまだまだ知らないことが多い。今まで交響作家中心にしか音楽を聴いていなかったから、そのイメージがいろいろな点で覆っていく体験をしている。

 

 終了が22時過ぎ。さすがにカーテンコールもそこそこに早々と映画館を後にすると、南海で新今宮まで移動。ホテルに戻るとこの日はバタンキューとなってしまったのである。

 

☆☆☆☆☆

 

 

 翌日は8時頃までグッタリとしていた。結局は昨晩はシャワーを浴びる気力もなく寝てしまった。

 

 買い込んであったおにぎりを朝食にして、結局はチェックアウト時刻の10時前まで部屋でグダグダ。ホテルを出ると直接に京都に向かうが、新快速の中は超満員、降り立った京都駅はさらに満員。全く秋の京都はどうしようもない。駅から出るとキャリーをロッカーに入れたいと考えていたのだが、どこのコインロッカーも一杯で、大型キャリーを引きずってウロウロしているロッカー難民が多数。荷物預かり所も覗いたがここも長蛇の列でどうしようもない。これは京都駅で荷物を置くのは不可能と判断して、一旦四条に移動することにした。

 

 とりあえず四条のロッカーには空きがあったが、ここも大型ロッカーはすべて塞がっている状態。幸いにして私のキャリーは一番小さなロッカーにでも入ったのでここに置いておくことにする。

 

 四条まで来たのだから昼食もこの辺りで摂りたい。結局は「一風堂」に入店して、白丸チャーシューラーメンと一口餃子を注文。オーソドックスな博多とんこつラーメンで美味。餃子の味も良い。

 

 私が訪れた時には待ち客がいなかったのだが、私が店を出る時には既に数人の待ち客が。やはりここは人気店のようだ。

    

 さて昼食を終えてこれからどうするかだが、今日の京都市響の公演は14時半からなので、まだ3時間弱の時間がある。今、京都で開催中の展覧会と言えば、国立博物館での「京のかたな」か近代美術館での「藤田嗣治」。しかし前者は何やら刀剣擬人化アニメの影響で腐女子が殺到してとんでもない状態とのことだし(朝一の段階で1時間待ちとのHPでの記載があった)、後者はどうせ私とは相性が良くないし(私はどうも藤田の絵画は苦手である)。疲れがあることもあっていずれも訪問する気になれず、結局はこのまま四条のネカフェで時間をつぶすことに。

 

 ネカフェでは「ULTRAMAN」などを読んで時間をつぶしたが、この作品は特にウルトラマンとは無関係なこういう作品として読めばそれなりに面白いか。ただ時々、キャラクターがもろにラインバレルになってしまっていることがチラホラあったのが気になったが。

 

 2時間ほど時間をつぶすとホールに移動する。ホールの入りは7割程度と言うところか。京都市響としてはあまり入りが良いとは言いにくい状態。やはり演奏曲の知名度不足が効いているか。ロシアマニアなら逆に外せない内容なのだが。

 


京都市交響楽団 第629回定期演奏会

 

[指揮]アレクサンドル・ラザレフ

 

グラズノフ:バレエ音楽「四季」op.67

ボロディン:交響曲第2番ロ短調

 

 いきなりグラズノフの冒頭から驚いた。ラザレフの指揮にかかると京都市響がロシアのオケのような音を出すのである。グラズノフが音楽で描ききったロシアの雪原の風景が眼前に展開する。この曲は全体的に今ひとつまとまりがなくて散漫な印象があるのだが、ラザレフの指揮はそれをピシッと引き締めてくるので、弛緩したところがない。

 後半のボロディンは非常に起伏が激しく、時にはとんでもない爆音で進める激しい音楽でもある。かなりダイナミックであるのだが、粗にして野だが卑ならずとでも言うべきか、爆音が無意味な空騒ぎでなく実に説得力のある表現になっている。どんな爆音になっても統制が取れて揺らぎがないところは京都市響の演奏も見事であったと言うべきだろう。チャイコフスキーなどの交響曲と比べて決して出来が良いと感じられないこの曲から、ロシアの魂的な魅力を最大限に引き出した快演であった。


 

 なかなかの名演に場内もかなりの盛り上がりとなった。拍手が鳴り止まず、最後になるとラザレフが「もう帰って寝させてくれ」というジェスチャーをして場内は爆笑。比較的観客の反応がクールな京都市響にしては珍しいほどの盛り上がりであった。ラザレフは先に日フィルでもロシア魂全開の引き締まった名演を聴かせてくれたが、なかなかの統率力のある指揮者である。

 

 これで今回の遠征は終了。疲れたので四条でキャリーを回収するついでに星乃珈琲で一服してから帰宅することにしたのである。

    星乃珈琲でモンブランフレンチトーストを頂く

 

 

 

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