展覧会遠征 朝来編

 

 今週は兵庫県中部地域を巡回することにした。私としては、近場でサクッというお出かけのつもりだったのだが・・・これが予想していなかった展開となった。

 

 朝から天候が気になったが、やや曇っているものの何とか持ちそうな雰囲気である。そこで予定通りに出発する。まずは姫路バイパスから播但有料道路を乗り継いで朝来出口までのドライビング。これはなんということはない。途中、播但有料が対面二車線になったところから渋滞に出くわしたが(走行車線が一車線だから、一台遅い車がいると直ちに渋滞。それにしてもこんな渋滞道路にしては通行料金が高い。)、それは計算済み。ほぼ予定通りに朝来に到着する。出口自体がかなりのどかな雰囲気のところにあるが、最初の目的地はそこからさらにのどかなところに入っていく。

 目的地は多々良木ダムのちょうど真下にある。ちなみに多々良木ダムは積層した砂利をアスファルトで遮水した「アスファルトフェイシングフィルダム」と言うそうな。ここでは大規模な揚水発電がなされており、関西方面に電力を供給しているとのこと。かなり大規模なダムであるが、見た目は砂利を積み上げただけに見えるため、何となく危なっかしいイメージがある。もしこのダムが決壊したら、この美術館は一瞬で押し流されるななんてことも頭をよぎる。

 まさにダムがそこまで迫ってます


「森崎伯霊展展」あさご芸術の森美術館で10/14まで

「日下寛治展」 あさご芸術の森美術館で10/28まで

 森崎伯霊は地元出身の画家で、ひたすら田園風景を描き続けたようである。そこに描かれているのは素朴ながらも心温まる光景である。彼の絵は技巧的ではなく、印象としては小学生の夏休みの宿題のような絵。構図だのデッサンだのという細かいことは脇において、描きたいものを詳細に描いているという印象の絵画である。しかしその素朴さが心惹かれる。

 日下寛治は地元出身の彫刻家である。この美術館のメインとなっている淀井敏夫の作品は、いかにも現代彫刻的な輪郭を歪めたものが多いのに対し、彼の作品は極めてオーソドックスで、アートにも技巧にも走っていない。非常に良く彫り込まれているのだが、それをこれでもかと見せるタイプではない。そしてどことなく全体的に曲線的な造形は暖かみを感じさせるのである。


 この美術館のメインは野外彫刻が多いので、これらを見て回っていると森林浴をしながら散歩というイメージになってしまった。ややいつもの美術館とは雰囲気が違う。

  

 野外彫刻は様々、こういう比較的分かりやすい作品から

  

 こういうわけの分からない作品まで

 

 美術館を回った後は、次の目的地である。次に目指したのは竹田城跡。日本三大山城跡などと自称している堅固な山城跡である。実を言うと今回の遠征はここが主目的だと言えるかもしれない。だから今日は朝から天気を気にしていたのである。

 この山城跡については、今年春の福知山遠征の帰りに播但線の車窓から見上げて以来、その姿が私の脳裏に焼きついて離れなくなっていたのである。まさに一目惚れとでもいうべきだろうか、実はその後に何度となくこの城跡の姿を夢にまで見ているのである。いつかはここを登らないといけないという気持ちに常に駆られており、今回ついに決行の時となった次第。

 ふもとの飲食店の駐車場を通り過ぎ(それにしても客が皆無なのはなぜ?)、車一台通過するのがやっとの狭い山道に入り込む。もし対向車がやってきたら万事休すである。やがてその難所を通り抜けると駐車場に出くわす。どうやら車はここで置いていけということらしい。

 さて車から降りて見渡すと「大手門コース」と「天守台への近道」の2コースがある。せっかちな私は迷うことなく近道の方を選ぶ。しかしこれがとんでもない間違いだったことに気づくのに5分もかからなかった。

 最初はそう大変でもないように見えたのだが

 

 確かにそのルートは最短距離であった。しかし最短距離という意味は、急峻な斜面の足元に杭を打って、一応階段にしているというだけの意味である。一段一段の高低差がかなりあり、足に相当の負担がかかる。しかもまずいことに、私は荷物を車の中に置かずに、そのまま持ってきていた。この重量が優に10キロはある。私の足腰は体重プラス荷物の重量に直に悲鳴を上げ、心肺機能はすぐに限界を超えて息が上がってくる。挙句の果てが、息苦しさが極限を超えると共に吐き気まで起こってくる。完全な失敗であった。ルートの険しさ、自身の体力の低さ、すべてを読み間違っていた。全行程の2/3ほど行ったところで(これは今だから分かるが、その時はいつになったらたどり着くかは全く分からない)、道端にへたり込んで動けなくなってしまう。結局、途中でへたり込んで座り込んでしまうこと数分、ようやく天守台にたどり着いたときにはヘロヘロになっていた。

 しかし人間とは不思議なもので、先ほどまでへたり込んでいたのに、ようやく目的地に到着したとなると、動き回れるのである。ましてやこれだけの絶景となれば。

 その光景は私の期待していた以上のものだった。山間の街道筋がはっきりと見渡せる。かつてこの城が生野銀山の押さえの城としてだけでなく、山陰地方から播州を守る城として重要拠点であったのがうなづける。ここと播州の拠点である姫路城を結べば、播州から阪神にかけての西側の守備は万全である。

  

 このような「そそり立つ」というイメージの山城は、ここ以外では岐阜城を思い出す。しかし岐阜城は濃尾平野を上から見下ろすという風景だったのに対し、こちらは山間に城が浮かんでいるような風景である。だから岐阜城に登ったときに脳裏に浮かんだ言葉は「世界征服」だったのに対し、ここを登ったときに心に浮かんだ言葉は「飛びたい」だった。今まさに目の前を鳶が自由に飛んでいる。ああいう風に私も飛んでみたいと感じたのである。

 竹田城はまさに「天空の城」であった。私のイメージに浮かぶのは、テレビで見たマチュピチュの光景と、映画館で見たラピュタの光景であった。そしてこのイメージこそが、私がここに強烈に惹き付けられた理由であったことが分かったのである。

 天空の城

 帰路は近道ではなく、大手門経由のルートを通った。確かにこちらのほうが距離は長いが、登りやすい道である。ただあまりに回り道なので、駐車場にたどり着くかが不安になる。そして「もしかして引き返した方が良いのでは」と思った頃にようやく駐車場にたどり着く。

 

 想定外の登山になってしまって腹も減ったし、体も疲れた。そこでここで昼食にする。昼食は和田山まで移動、かねて調べておいた店に向かう。

 

 今回昼食をとることにしたのは「一粒」。蒟蒻会席の店である。この店では蒟蒻入りうどんなどあらゆる蒟蒻料理を味わえるが、今回私が注文したのは一粒御膳2625円也。メニューは一品料理の盛り合わせから始まって、蒟蒻の刺身、蒟蒻の天ぷら、蒟蒻寿司に蒟蒻グラタン、蒟蒻うどん、蒟蒻ご飯にデザートも蒟蒻ヨウカンと蒟蒻づくしである。ちなみにメニューは季節で変わるとか

  

  一品の盛り合わせ(全部蒟蒻です)         蒟蒻の刺身に蒟蒻の天ぷら

  

  蒟蒻グラタンに蒟蒻の寿司           蒟蒻うどんと蒟蒻ご飯(上の具も蒟蒻)

  

  味噌汁の具にも蒟蒻が入ってます          最後は蒟蒻ヨウカン

 

 驚いたのはいずれも蒟蒻とは思えないほどに食べ応えがあったこと。うどんのこしなどは蒟蒻とは思えなかったし、蒟蒻入りのご飯も何の違和感もなかった。また蒟蒻の刺身、蒟蒻の寿司などいずれも食べ応えがあった。蒟蒻料理と言うことで貧弱なダイエット食を予想していたのだが、その予想は見事に覆された。蒟蒻という素材の奥深さを初めて知ったのである。

 蒟蒻がこんなに美味しく食べられるとは目からウロコだった。お腹が気になるお父さん(お父さんでない私もここに入るか)から、便秘が気になる女性まで美味しく楽しめて、カロリー抑え目といううれしい次第である。

 

 食事を済ませた後は美術館につきものの温泉(笑)。今回まず訪問したのは、「よふど温泉極楽湯」。和田山から田舎道を20分ほど南下した山間の集落のはずれにある。

 施設自体は極めてオーソドックス。内風呂+露天風呂+サウナである。泉質は弱アルカリ泉とのことでいわゆる美人の湯系。いくらかヌルヌル感があるがそう強烈ではない。基本的に無色無臭で非常に肌当たりの柔らかい湯という印象。加熱循環とのことなので、露天の方には塩素の臭いが若干あるが、気になるレベルではない。

 泉質としては悪くない。ただ取り立てて特徴がないのが難点か。なお本来は入浴禁止のはずの柄入り人種が堂々と浴室内でボディーアートの個展を開催していたのはいただけない。

 ちなみにここの施設には食堂もあるが、私の調査ではここが結構評判が良いらしい。なお私はここでおみやげにいかにも手作り風のおはぎを買って帰ったのだが、これがいかにも自家栽培風の小豆を使用しており、非常に美味であったということも記しておく。

 

 風呂にも入ったことだしここで引き返そうかと思うが、時間を見るとまだ余裕がある。播州北部くんだりまで遠征してきたついでである、さらにしばらく山道を飛ばしてもう一軒はしごをすることにする。

 

 次にやってきたのは「一宮温泉まほろばの湯」である。この辺りは公園開発がされているようで、その一角に入浴施設が存在している。

 施設は内風呂+露天風呂のこじんまりとしたもの。泉質はナトリウム塩化物泉とのことだが、かなり塩分濃度が高くてべったりした印象の湯である。口に含むとかなりのしょっぱさと苦さを感じる。どうやらミネラル濃度がかなり高いようである。そのため、温まりはするが肌当たりはややきつい。長時間ドライブで背中がこすれていたらしく、私は入浴と同時に背中にヒリヒリする痛みを感じることになった。

 空が見えるものの回りは柵しか見えないという露天風呂が多い中で、ここの露天風呂は開放感がある方である。その露天風呂でゆっくりとくつろぐのがここの正しい楽しみ方か。

 

 温泉はしごでゆっくり温まった後は、再びとって返して最後の目的地にと向かう。


「シュルレアリスム展−謎をめぐる不思議な旅」姫路市立美術館で10/28まで

 超現実主義とも訳されるシュルレアリスムだが、その趣旨は人間に内在する深層心理などをあぶり出そうとするものである。ただその手法は作家によって様々であり、各人が各々の技法を駆使している。

 展示作品は、シュルレアリスムと言えばまず登場するデ・キリコを始めとして、この美術館が得意とするデルヴォーにマグリット、さらにはマックス・エルンストなど様々。

 展示は概ね時代を追っているのだろうと思われるが、時代が進むに連れて形態が崩れてきて、わけが分からなくなる傾向がある。どうも深層心理を描くはずが、最終的には安直な線に落ちていったように思われてならないのだが。

 なお本展最後にはデュシャンの作品もあったのだが、デュシャンはシュルレアリスムの流れで良かったのだろうか? 私としてはポップアートの祖としてのイメージの方が強いのだが。


 以上で今回の遠征は終了である。振り返ってみると、山登りをして、蒟蒻を食べて、温泉に入って帰ってくるというダイエットプログラムのような内容になってしまった。いつもこんな調子の遠征だと、私のメタボリックも解消されるかもしれないが・・・。

 

戻る