北陸編

 

 私の全国美術館征服計画は、近畿を中心に着々と進行中である。昨年には念願の長野遠征を実現、その後も東海・中国などを集中的に攻略を進め、現在の版図は西は広島、東は東京へと及んでいる。その中でまだポッカリと空白地域になっているのが北陸である。

 北陸地域が未攻略地域になっているのは数々の要因がある。まず一番大きなものが「目玉となる施設がない」ということに尽きる。この地域にも各種地方美術館は存在するが、残念ながら物量的には信州地域より劣るし、核となるべき施設がないということは否定しがたいところである。そのためについつい後回しになってしまったというのが実際である。

 しかし近年になって私の遠征のスタイルが変化し始めた。かつては食うや食わずで美術館を駆けずり回るタイプの難行苦行型であったが、さすがにもうその体力がなくなって来始め、近年は温泉やグルメも絡めてより旅行寄りへと変貌を遂げた。そうなった場合、改めて訪問先として北陸地域が再浮上したのである。美術館的には今ひとつ目玉がないように思えるこの地域も、観光と合わせ技で行けばなんとかなるのではないか。そう考えてプランを練り始めたのがこの春であった。もしかしたら今回の北陸プランは、これから先に辺境地域を攻略する場合の一つのモデルケースになり得るかもしれない・・・私としてはそのような試行錯誤を含んでいるのである。

 移動手段は最後の最後まで悩んだが、最終的には自動車を選んだ。実は当初のプランは青春18切符を使用した金沢一泊プランだった。確かにこれは金銭的にはもっとも節約できるのだが、時間的制約が多い上に何よりも体力的にきつすぎるということで没となった。そこで第二案として特急サンダーバードを使用しての金沢一泊プランが浮上したのだが、わざわざ特急を使用して行くのなら一泊で帰るのも勿体ないから、福井も含めて二泊すれば良いのではないかとプランが拡張。しかし福井を回るとなったら、車がないと移動の制約が大きすぎて難しいのではないかと交通手段が車に変更。さらに車を使用するのなら、いっそのこと金沢の前に富山も回っちまえとさらにプランが拡張。結局、選挙目当てに繰り出された安倍内閣の場当たり的公約並の迷走を経て、最終プランが決定されたのである。


1日目 富山→金沢


 車を利用するとなったら、例によって出発は早朝となる。ETC割引を最大限有効に活用すべく、午前6時までに大阪近郊エリアで乗り降りを行い、後は100キロ刻みで走行しながらETC通勤割引を最大限有効に活用するというプランになる。ただこの方法は走行時間管理が重要になるので、渋滞や道交法原理主義者のテロに引っかかるのが一番恐い。幸いにしてUターンラッシュには時間的にぶつからなかったものの、途中で追い越し車線を悠々とマイペースで走る車には出くわしてしまった。イライラしながらも後ろにつけて走っていたら、しばらくすると後ろから猛烈なスピードで飛ばし屋君がやって来た。そこで私はさっさと彼に進路を譲ったところ、その飛ばし屋君は前方のマイペース君に見事な0メートル攻撃でプレッシャーをかけ続ける。さすがの鈍感マイペース君もこの圧力には耐えかねて走行車線に回避してしまった。道が空いたところで、これ幸いと私もついて行ったわけで、おかげで難所は通過することが出来た。

 なおこの飛ばし屋君、私の後ろについた時には圧力はかけてきておらず、渋滞の原因がどこにあるのかはわきまえていたようであり、私はそれに好感を持ったので道を譲った次第。前が混雑しているから仕方ないのに「そこのけそこのけ」と言わんばかりの下品な運転をするような馬鹿なら、私は道は譲らない(たまにいるんだな、長い渋滞の末尾についているのに、後ろから激しくパッシングしてくるような馬鹿。)。

 若干の紆余曲折はあったが、ほぼ予定通りの10時前に最初の目的地である富山に到着する。この頃には既に日は高く、今日も暑くなりそうな気配が漂っていた。


「アートの世界へようこそ」富山県立近代美術館で8/26まで

 同館が所蔵する作品に他館の作品なども組み合わせて展示した企画展。近現代作品が大半である。

 正直なところ、感心するような作品がほとんどなかった。大半の現代作品は退屈であるだけでなく、どこかで見たことのあるようなものがやけに多かった(ウォーホルのマリリン・モンローはもう勘弁してくれ)。なお同館はルノワールも一点所有しており、本展ではそれが展示されていたが、残念ながら同館のものはルノワールの中でも並。


 ちなみに同館の所蔵品展の方も回ったが、残念ながらこちらも今ひとつの作品が多い。なお一点だけ傑出したレベルの絵画があったが、これは菱田春草の作品。なるほど。

 美術館の方は予想以上にサクッと終わってしまったので、向かいにある科学博物館に立ち寄ることにする。


富山市科学博物館

 富山にまつわる自然的風土に関する展示や、生物に関する展示などが充実している。なお本館は7月13日にリニューアルオープンした直後とのことで、展示などもなかなかに綺麗。

 内容的にはお子様がターゲットであるとは言うものの、意外と楽しめるものが多かった。たとえばダイヤモンドダストを人工的に作り出す装置などは、大人でも見ていて楽しめる。また目の錯覚を利用した部屋などは私も体験して感心した。全体的に展示の見せ方なども工夫してあり、子供の「科学する心」を育てるには良い施設になっている。


 二館で1時間強をつぶしたところで、次の目的地に移動するべく車に乗る・・・のにドアを開けた途端に目眩がしてしまった。実はこの日はこの夏最高の暑さとも言われた日で、全国で熱中症での死者が続々と出ていたようである(このことは後で知ったのだが)。たった1時間野外に車を止めていただけで、車の中はサウナ状態である。何度かと思って温度計を見ると「HIGH」と表示が出たまま振り切ってしまっている。これでは車の中に子供を放置したままパチンコなんかに行っていると、子供が死んでしまうのは当然である。とりあえず車の窓を全開にしてエアコン全開で熱気を追い出すが、ちょっとやそっとでは冷えるものではない。仕方ないので諦めて熱々の車に乗り込む。こうなってくるとクーラーボックスの中の伊右衛門が命綱になってくる。

 汗だくになりながら、とりあえず富山市の中心部に移動すると、今度は屋内式の駐車場に車を放り込み、近くの商店街に昼食を摂りに行くことにした。実は今回の遠征では食事の場所も事前に調査してある。

 今回昼食を摂ったのは寿司栄総曲輪本店。富山で明朗会計を売りにしている寿司店である。やっぱり富山と言えば海産物、やはり寿司が定番だろうというところで選んだ店。富山らしいところでお任せのコースに、単品を3点ほど追加して勘定は3000円強である。寿司としてのCPはまずまずだろう。味の方は特に唸るほどではないが合格点(私はどうも寿司については評価が辛いので)。少なくとも冷蔵庫から出したばかりの冷え冷えのネタがしゃりに乗っかっているような回る寿司とは違って、職人がキチンと握った寿司である。

 とりあえず腹ごしらえをすると、近くのデパートの大和に行って、夜食用のマス寿司を仕入れることにする。実は私はこのマス寿司が好きで、富山までわざわざ来たのはこれが目的だったのかも・・・。しかしここで計算違いが発生。私が購入するつもりだったマス寿司は本日は既に完売・・・ああ、富山遠征の最大の目的が・・・やむなく別のマス寿司を入手する。

 大和での買い物で駐車場の2時間無料券をゲット、とりあえず一端車に戻って購入したマス寿司を車内のクーラーボックスに放り込むと(実はこのために「マス寿司専用クーラーボックス」を事前に用意していたのである)、まだ残り1時間ほどのある無料駐車時間を有効利用するために、富山城まで早足で移動する。それにしても暑い。途中で自販機の三ツ矢サイダーで命をつなぐ。

 富山城はこの地域に勢力を張っていた神保氏が居城としていた城である。しかし現在建っている城は戦後に建てられた鉄筋コンクリート製で、どうも元の城とは縁もゆかりもなさそうである。そう言えば、現在の城は博物館となっているのだが、そこでは「天守台」と表現せずに「展望台」と記してあったような・・・。なお博物館の展示物は、どこの城でも良くあるような、その城の由来と当時の物品について。全く同じような展示物を、かつて松江城や名古屋城や和歌山城や岡山城や岐阜城や福知山城で見た記憶がある。

 展望台に登った後は、同じ敷地内の美術館へも足を伸ばす


佐藤記念美術館

 富山の実業家であり茶人でもあった佐藤勘九郎氏が設立した美術館である。収蔵品は古美術中心で、二階には茶室が移築されている。

 私が訪問した時には、唐三彩を始めとする東洋の焼き物を展示してあった。なかなかに面白いものが展示してあったようであるが、残念ながら私の専門外


 見学が終わると直ちに駐車場にとんぼ返り、今度は車で次の目的地に移動である。なお先ほどは1時間の駐車で車は灼熱化してしまったが、今回は2時間止めていたが車は熱くはなっていない。屋内駐車場のありがたみを今回だけは思い知った。

 次の目的地は車で20分ほど移動したところにある。平屋のかなり大きな建物で、庭園なども備えている。


「墨画トリエンナーレ富山」富山県水墨美術館で8/19まで

 富山県水墨美術館は水墨画作品のみを集めた美術館であるが、墨画の可能性を探るために毎年墨画の公募展を行っているという。その入賞作を展示したもの。

 展示作品はまさに様々だった。写実的なものから抽象的なもの、また墨のみを用いたものから、他の画材も組み合わせたもの。「墨は五色」などと言われるが、確かにその表現力の奥深さを感じさせる作品も多く、その点では予想以上に楽しめた。


 なお本館には収蔵品の常設展示もあるのだが、そちらも大観や鉄斎など蒼々たるメンバーの作品が展示されており、かなり楽しめる。水墨画に特別な思い入れがない私が楽しめるのだから、水墨画好きなら一度は訪問する価値もありだろう。

 以上で富山市の予定は終了である。再び車を飛ばし、今度は高岡市に移動する。


高岡市美術館

 私が訪問した時には「山寺・後藤美術館所蔵ヨーロッパ絵画展」を実施していた。同美術館の巡回展は以前にどこかで見た記憶があるのだが、情けないことに全く覚えていない。また本展を見回した時、明らかに記憶に残っている絵もあるのだが、全く記憶に残っていない作品が多い。

 と言うわけで、改めて楽しめてしまったりする(笑)。バルビゾン派の絵は相変わらず農夫と牛の絵なのだが、それ以外にムリーリョの作品などがあったのが驚き。これが記憶に残っていないということは、以前に見た時と内容が微妙に違うのか、私がムリーリョに注目していないぐらい前のことなのか。

 常設展の方は新収蔵品を中心に公開していたが、これはあまり印象に残る作品はなし。同館は施設としては悪くないのだが、コレクションにキャラクターが弱い気がした。


 続けて同じ敷地内にある別の美術館を訪問する。


青井記念美術館

 隣接する県立高岡工芸高校に付属する美術館とのことで(ちなみに2階は同校の図書室となっている)、同校のOBなど関係者の作品が収蔵されている。

 展示されている作品は様々で、同校がかなり多彩な人材を輩出しているのがうかがえる。また展示作には作者が無名にもかかわらずかなり力を感じさせる作品もあり、正直なところ隣の市立美術館の収蔵品よりも強いインパクトの作品が多かった。一体これはどういう意味なのか?


 これで本日の美術館巡回予定は終了である。この後は宿泊予定地の金沢に向かって移動となるが、その前に一カ所立ち寄ることにする。

 

 で、立ち寄ったのは「高岡岩坪温泉凧」。高岡市中心部からやや移動した田園地域にある温泉銭湯である。

 泉質は弱アルカリ性の単純泉とのことだが、基本的に無味無臭である。内風呂・露天風呂のオーソドックスな構成で、源泉風呂と加温循環の浴槽があるが、いずれも源泉かけ流しで塩素は使用していないとのこと。塩素を使用していないので、肌あたりが柔らかい優しいお湯。浴感にはインパクトがないのだが、それが逆にじっくりと長風呂出来ることにつながる。施設自体は銭湯にしてはやや洒落た雰囲気。風呂上がりに飲むフルーツ牛乳がうれしい。しかもこれで入浴料は銭湯料金の370円。恐るべし温泉銭湯は富山にもあった。

 炎天下で散々流した汗を温泉で洗い流すと、やっと人心地つく。後は能越自動車道から北陸道を乗り継いでいよいよ金沢入りである。

 

 実は私は学生時代に一度だけ金沢を訪れたことがあるのだが、その時の記憶はほとんど残っていない。そのためか、今回20年ぶりぐらいに金沢を訪れて初めて驚いた点がいくつもある。まず第一は金沢の街が予想していたよりも大きかったこと。正直に言うと、北陸の地方都市と見くびっていたところがあり、こんなに大きな街だとは思っていなかった。そして第二は金沢駅の巨大さ。これにも度肝を抜かれた。

 さらに一番驚いたのは車が運転しにくいこと。金沢に入って最初に起こった現象は、カーナビが現在位置を見失ったことである。金沢市街は細かい道が多いので、カーナビがフォローしきれないのである。しかもチェックイン前に夕食を摂ろうと、目星を付けていた店に向かおうとした時、誤って路地が入り組んだ地域に入り込んでしまい、現在位置は分からない上に、前の道が通り抜けられるかも分からないとという状態になってしまって進退窮まり、脱出に四苦八苦する羽目になってしまった。あたりの人に道を聞きながらようやく脱出した時にはもうヘトヘトになってしまった。なお私の車のナンバーを見れば、私がよそ者であることはすぐ分かるが、現地の人は私のようなよそ者の迷子には慣れているような様子があった。さすがに観光地と言うべきか。

  迷路のような路地はなんとか脱出したが、現在地を見失なった上に、ホテルの正確な位置もよく分からない、しかも夕方になってきて車の量はさらに増加してさらに走りにくさに拍車がかかる。結局金沢の街をグルグルと何周もしてから、ようやく今日泊まるホテルにたどり着いたのだった。ホテルに到着した時には、炎天下を歩き回った疲労と、金沢市内を車で走り回った緊張でヘロヘロになっていた。

  今晩の宿と定めたのは「ドーミーイン金沢」。駐車場付でしかも天然温泉付、それでいて料金がそう高くないことが決め手となって選んだ宿である。なお私はエコノミーシングルを予約していたのだが、部屋が空いていたのかそのままの料金で通常のシングルに振り替えてくれた。この時点で好感度アップ。

 しかも部屋に入ってみた時点で思わず声が出た。広いし綺麗だ。特に私が一番気に入ったのは照明が明るいこと。大抵のビジネスホテルは照明が暗くて、部屋に入った途端に気が滅入ることが多いのだが、ここの部屋は私好みの明るい照明。これでさらに好感度アップ。また私は個人的にトイレと洗面所が一緒になっているユニットバスが嫌いなのだが(クソする横で歯を磨くのはどうも心理的抵抗がある)、ここは洗面所は別となっていた。これがさらに好感度アップ。正直、安ホテルばかり渡り歩いてきている私の場合、これだけ私の好みをツボを押さえている部屋に行き当たったのは初めてである。思わず鼻歌が出る。

 荷物を片づけて、飲み物を冷蔵庫に放り込み、部屋の冷房を効かせて一息ついたところで夕食に繰り出す。車では先ほどひどい目に会っているので、観念してバスで移動することにする。金沢駅前のバスターミナルまで赴く。しかしどのバスに乗ったら良いのかがさっぱり分からない。バスの行き先の表記があまりにわかりにくい。どうも初心者にはハードルの高い街である。ターミナルをウロウロしてからようやく目的地行きのバス乗り場にたどり着く。

 夕食を食べに行ったのは「自由軒」。東山の洋食屋であるが、事前の調査によると現地では結構有名な店であるらしい。7時過ぎ頃に店に着くと既に満員であった。やむなくしばし待つが、すぐに席は空く。ただ私が入った後も次々と客がやって来ている。来る連中がことごとく「るるぶ」を手にしていたところを見ると、かなり雑誌で宣伝されているらしい。

町の洋食屋さん

 この店はオムライスが有名だとのことだが、私が注文したのはタンシチューである。いかにも洋食屋的なオーソドックスで懐かしい味。初めての人間でもほぼ誰もが思い浮かべるのはこんな味ではないかというような味である。確かにうまい。

タンシチューなぜか味噌汁付き

 腹ごしらえが終わったら、再びバスでホテルに帰る。今度はいよいよ大浴場である。

  金沢の温泉はモール泉と言われる独特の温泉で知られている。モール泉とは太古の植物の堆積物からの有機物が含まれている温泉で、茶褐色で石油的な匂いがするとのことである。このホテルの風呂も泉質的にはそのタイプらしく、温泉表示はナトリウム塩化物泉となっているが、かなり黒っぽい色をしており独特の油っぽい匂いがする。私はこのタイプの湯は初めてであるが、その見かけの毒々しさに反して、肌あたりは意外なほどに柔らかく、また入浴していると肌がスベスベとしてくる。

 このホテルの風呂は内風呂と露天風呂からなっている。ホテルの最上階にあるために、一応「展望風呂」ということだが、実は風呂は壁に囲まれており、露天風呂からも空しか見えず、景色を見るには壁にある穴からのぞかないといけないというのはご愛敬か。まあ都会の真ん中だからこれは仕方ないのだろう(外からの丸見え風呂でも困るし)。

 この日は長距離ドライブと炎天下での移動でかなり疲れていたのだが、温泉にじっくり浸かったことで気分的には楽になってきた。やっと人心地ついた気分である。部屋に戻ってしばらくまったりしたところで、昼に購入していた今晩の夜食を取り出すこととする。

  

 私が購入したマス寿司には一応「特選」との表示がある。どのあたりが特選なのかだが、使用しているマスの脂ののりが通常のものよりも良いのだとか。とりあえずふたを開けると一口ほおばってみる。確かに以前に私が食べたことがあるマス寿司よりもジューシィーな感じがする。なかなかにうまい。やっぱりおみやげ品よりも、現地ものは違うのか。それともこれが「特選」なのか。

 と言うわけでマス寿司を一人で完食、そして腹がふくれると目の皮がたるむ・・・というわけで眠気が襲来してきたのでこの日はさっさと寝ることにする。


2日目 金沢市内周遊→加賀→福井


 翌朝、7時頃に目覚めると再び最上階の温泉に繰り出す。昨晩と違って露天風呂からは青空が見えていて心地よい。また日の光の下で見ると、昨晩には真っ黒にしか見えなかった湯が、実はやや赤みを帯びていたことが分かる。

 朝からどっぷりと浸かる露天風呂。自然に「ああ、良いなあ・・・」という声が出る。なんかこんなことをしていると、日々の生活に戻りたくなくなってくる。小原庄助氏は朝寝・朝酒・朝湯で身上をつぶしたと言うが、なんかそんな気持ちが分かってきた。こうやってボヤーッと朝風呂に使っていると、つまらない世の中のゴタゴタなんか全部放り出したくなる。

 しかし今日はまた今日の戦いがある。いつまでも風呂の中で呆けているわけにはいかないのである。入浴が終わると今日の戦闘に備えて朝食を腹にたたき込む。バイキング形式なのだが、これがまたボリューム及び質的にも申し分なく、さらに好感度アップ。朝からキチンとした和食を食べたい私のニーズに見事にマッチした内容である。

 正直言うと今回は私が今まで行ったホテルの中で一番の当たりであった。今までこれだけ私のツボを押さえていたホテルには出会ったことがない。後ろ髪を引かれそうなぐらいに名残惜しかったが、それを振り切って9時頃にホテルをチェックアウト、最初の目的地に向かう。

 まず最初の目的地は県立美術館。金沢の目的地は兼六園を中心に集まっており、観光客が集中するのもこの地域である。県立美術館の駐車場に車を入れると、すぐに駐車場の警備員が近づいてきて、美術館の観覧が終わったら直ちに車を出すように念を押された。どうやらここの駐車場が無料なのを良いことに、ここに車を止めて裏手の兼六園に行く不届き者がいるらしい。これは迷惑な話だ。


「ヴィクトリア アンド アルバート美術館所蔵 浮世絵名品展」石川県立美術館で8/19終了

 イギリスを代表する国立美術館であるヴィクトリア アンド アルバート美術館は、多くの浮世絵コレクションを誇るが、その中にはかなり特徴的で貴重なものを含まれているという。本展は同館の浮世絵コレクションの中から、江戸後期から明治期にかけての作品を展示公開したものである。

 北斎、広重、歌麿といった有名どころは当然として、中には私が名前の知らない作家まで、多くの作品が展示されていた。また時代が幕末から明治にかけてであるので、西洋画の影響が表れている浮世絵作品などが含まれていたのが本展の特徴でもある。個人的には西洋の銅版画を参考にしたと思われる浮世絵などが興味を惹いた。北斎が西洋的遠近法を取り入れた作品を制作していたことが知られているが、この時代の絵師はどん欲に新しい手法を吸収していたようだ。ダイナミックな時代の息吹が感じられる。また私が最近注目している河鍋暁斎の作品も展示されていた。

 さらに同館のコレクションの中で面白いものには、団扇絵のコレクションなどがある。団扇絵はそのまま損傷して消滅する場合が多いので、非常に貴重だとのこと。また同様にこれも珍しい版下絵なども展示されており、一体これだけ貴重な資料がなぜイギリスに渡っていたのかということにも疑問を感じたりしてしまった。


 石川県立美術館は外から見た時にはそれほどに感じなかったのだが、中に入ってみると意外に大きく、また常設展示の収蔵品などにもなかなかの名品が多々あった。さすがに加賀百万石前田家の城下町らしく、前田家にゆかりのある名品から、近代日本絵画の傑作まで幅広く、懐の深さを感じさせる。ここはいずれまた是非再訪して、ゆっくりと見てみたいものであると感じさせられた。

 県立美術館を見終わった後は裏手に位置する21世紀美術館に移動、車はそこの地下駐車場に放り込む。ここの地下駐車場は市役所の地下駐車場とも接続してあり、この辺りで最大の駐車場であるようだ。私は昨日の件で市内を車で動くのは懲りたので、今日はここに車を放り込んで、後は公共交通機関で移動することに決めていた。どうも金沢の街では車は放棄してしまった方が正解のようである。


金沢21世紀美術館

 この美術館はその名の通り現代アートが中心の美術館であるが、市民ギャラリーなども含んでおり、各種展覧会が開催される。私が訪問した時は、私がかつて京都で見た「ヘミングウェイが愛した街 1920年代巴里の画家たち」を開催していた。京都では会場のスペースの関係などで展示されていなかった作品も、こちらでは展示されていたのでそれなりに楽しめた。

 メインの展示室では「我が文明:グレイソン・ベリー展」と「パッション・コンプレックス:オルブライト=ノックス美術館コレクションより」の2つの企画展が同時開催されていた。

 前者は作者が手がけた多くの作品から陶芸作品が中心となった展示となっていた。どの作品も作者による独特の絵画が描かれているのだが、そこに滲んでいるのは強烈な文明批判、特に戦争批判の精神である。現代の戦争における虐殺の光景を、古代の壁画か何かのような調子で描いている作品は印象に残った。

 後者はアメリカのオルブライト=ノックス美術館のコレクションから、現代を代表する作品を選抜した・・・とのことなのだが、さすがにアメリカの現代アート系美術館らしく、私にはどうでも良い作品ばかりで興味はそそられなかった。

 この美術館に関しては、ある意味では一番の展示物は美術館自体なのではないかとの印象を強く受けた。無機質な白で統一されただだっ広い展示室が迷路のようにつながっている構造のこの建物は、配置次第でどのような演出も可能であるし、また大仕掛けな現代アート作品は、このような無機質な展示室でこそ舞台装置として映えるということも実感した。はっきり言って展示物自体は私の目にはがらくたにしか見えないのだが、このようながらくたを配することで、美術館自体が巨大な仕掛けになっている。またふんだんに外光を取り入れている建物の設計も現代アート向けである。

  

 つまりは建物自体が巨大な現代アート作品の一つだというのが私の感想。そう言う意味では本館は、建物自体を一見する価値は十分にある。


 この美術館を一回りした頃には(とにかく広い、この美術館は)昼時となっていた。そこでバスに乗って昼食を食べに行くことにした。向かった先は近江町市場である。

 都心の市場はどこも郊外の大型店に押されて瀕死の状態だが、ここ近江町市場は観光地化しているらしく、かなりの人通りである。これだけの人出が他の市場にもあればなどと感慨にふけることしばし。今日の昼食はここの魚屋の奥にある「近江町食堂」で摂ることとする。

 近江町市場は観光客らでいっぱい

 そう大きくはない店なのだが、中はすでに満員状態であり、しばし待たされる。ここもやはり「るるぶ」を手にした客が多いところを見ると、どうも観光客に有名な店のようである。ちなみにここの名物は海鮮丼とのことで、私もそれを注文する。

海鮮丼1500円也

 丼鉢に多彩な海の幸を盛られた海鮮丼が到着。確かに見るからに楽しい。またネタの鮮度も良く、味もまずまず確かにCPとしては悪くない。

 ただ正直なところ、この海鮮丼で1570円というのは、CPとしては悪くはないが、そんな極端にCPが高いとも感じられないのである。確かに私が個人的に魚系には評価が辛くなってしまうことはあるだろうが、それにしてももっとCPの高い店もあるように思われる。なお近江町市場内をうろつくと、海鮮丼を売りにした店がいくつも存在しており、いずれも価格は1500円前後であった。どうも海鮮丼自体がこの市場の名物になっている気配がある。

 この近江町食堂にしても、先の自由軒にしても確かにCPは悪くない。また観光地においては、気を付けないと信じられないような超低CPの飲食店に出くわすこともあることを考えると、両店共に選択肢としてはかなり良い方に属するのは確かだろう。ただ個人的には金沢以外で両店よりも遙かにCPの高い店も知っており、よそ者が目の色を変えてまで遠方から訪れるような店かには疑問を感じずにはいられない。やはり両店とも「作られた行列店」という印象はぬぐえないのだった。


 昼食を食べ終わって外に出ると、そこは灼熱地獄だった。何やら体温が外に逃げずに、逆に熱が体に染みこんでくるような気がする。ここからまたバスで兼六園まで移動しよう考えたのだが、金沢のバス路線は複雑すぎてわけが分からない(なぜか「兼六園前」とか「県立美術館前」「市役所前」などといった分かりやすい停留所名がないのである)。暑さで頭がクラクラしてきたので、観念してタクシーで移動することにした。なおタクシーの運転手の話によると、金沢の街は確かに車では走りにくいとのこと。普通のカーナビなどは全く使い物にならず、金沢の街でも有効に機能するカーナビを作ろうと思うと、一千万円ぐらいするのではないかとのことである。

 路地をいくつか通り抜けた後、タクシーが兼六園の入り口前に到着した。ちょうど背後が金沢城公園になるようだ。実は当初の予定では私は兼六園と金沢城公園の両方を見学しようと思っていたが、この時点ではとてもそんなことは不可能なのは明らかだった。まずあまりの暑さのためには私はかなり体力を消耗していた。さらにこれは地図では分からなかったことなのだが、金沢城は山城であり、この地域はかなり起伏に富んでいるようであった。平城の岡山城の庭園である後楽園と、山城の金沢城の庭園の兼六園は自ずと構造が異なっているようである。

 とにかく暑さのために目眩がしてきているので、これを何とかしないといけない。とりあえず近くの茶店に入って宇治金時を注文する。氷の冷たさが心地よい。まさに生き返るというやつである。

 宇治金時ドーピングでようやく復活した私は、兼六園に入場する。この庭園は地形を巧みに生かした構成がさえているのだが、一番面白かったのは日本庭園には極めて珍しい噴水があること。この噴水は高低差を活かした自然のものだという。設計の巧みさに脱帽である。岡山の後楽園が、敷地の広大さを活かした大型の構造が多いのに対し、兼六園は変化に富んだ地形を活かして小さな仕掛けを散在させてそれを巧みにつなげるという形になっている。全体の構成に動きがあって私好みである。後楽園が静の庭園なら、こちらは動の庭園である。水戸の偕楽園はどうなんだろうか。いずれは行かないと・・・。

  

 結局、兼六園を横断する形で降りてきたのだが、この時点で頭はボーっとして足下はヨロヨロの状態。やはり日本庭園の散策は真夏の真っ昼間にするようなものでないことを痛感せざるを得なかった。自動販売機で購入したカルピスソーダの大缶を一気飲みしてとりあえず命をつないだが、やはりもう体力も気力も限界が来つつあった。兼六園周辺には他にも見るべきところがあるはずなのだが、もうこれ以上この炎天下では私の体力がもたない。熱中症で倒れて夕方のニュースでカウントされるような羽目には陥りたくない。残念ながら金沢見学はここまでにして移動の決断をすることにした。

 正直なところ、金沢にはかなり未練が残った。まだ回り残しているところも多々あるし、金沢の街に漂っている文化の薫りのような雰囲気も気に入った。またあのホテルも非常に気に入った。いずれは金沢を再訪することを心に誓う。ただとにかくその時は真夏は避けよう(笑)。待ってろ金沢!いつかリベンジだ!

 この後は移動だが、まだこの時点でまだ2時すぎであり、時間的にはやや余裕がある。このまま福井に入ってしまうのはあまりに芸がない。そこで金沢で予想以上に見るべき場所がなかった場合を想定して用意していたプラン2を発動させる。プラン2とは加賀市に立ち寄るプランである。北陸自動車道を途中で降りると、加賀に向かって田舎の道を突っ走る。


加賀アートギャラリー

 ショッピングセンターに隣接して建設されている加賀市の複合文化施設。その一角に美術ギャラリーがあり、適宜所蔵品などの展示が行われているようである。

 私の訪問時は「親子で楽しむ美術館 アートな生き物たち」と銘打って、動物を描いている作品が展示されていた。日本画の屏風や蒔絵作品など、全体的に地味ではあるのだが、意外に秀品があり、目を楽しませてくれた。


加賀九谷焼美術館

 やはり加賀と言えば九谷焼がはずせないだろうということで、最近になって建設された美術館のようである。館内には九谷焼の名品が展示されている。

 正直なところ陶芸は専門外の私であるが、ここの展示作品については単純に面白いと感じる作品が多かった。焼きや形態のわびさびを感じる茶器の類と違い、九谷焼はその絵付けの妙などを楽しむので、感覚が絵画に近いのであろうか。また絵付けにも華やかで美しいものが多く、その点で素人にも理解しやすい。これは全く予想外であった。


 加賀を後にすると、ようやく福井入りである。今晩の宿は福井市のはずれにある温泉旅館ということになっているのだが、私が予想していたよりもずいぶん遠く、田んぼの真ん中を車で突っ走ることになる。それにしてもつくづく感心するのは、加賀からこちらは田んぼの規模がまるで違うことだ。見渡す限り田んぼというような光景が多い。さすがに米どころである。関西出身の私はここまで大規模な田んぼを見たことがない。

 田んぼの中を突っ走ること1時間弱、ようやく目的地に到着する。私が今晩の宿泊地に定めたのは福井の佐野温泉。元々は日帰り温泉施設だったところに、宿泊施設が併設されたという経緯があるらしい。夕食は6時からとのことでまだ1時間ほど余裕があるので、とりあえず温泉に先に行くことにする。ここの入浴施設は本館と新館に分かれていて、新館には大浴場と砂利風呂、歩行風呂などがあり、本館には露天風呂、泡風呂、アロエ風呂などがあり、24時間いずれかの風呂には入れるようになっているとのこと。

 私はとりあえず新館の大浴場に行った。ここの泉質はカルシウムを多く含むとのことで、飲泉も可能ということである。ただまいったのは、湯温がやたらに高いこと。どうも元々の源泉自体がかなり高温らしく、飲泉も気をつけてしないとやけどをする。ぬる湯好きの私にはとても落ち着いて浸かっていられない温度。実際、他の入浴客も「こりゃ熱すぎて入れない」と言っている人もいた。砂利風呂は横たわって体に砂利をかぶってじっくり温まるという変わった風呂だが、私のように体の体積が大きい人間の場合は砂利を掘るのが大変だし、砂利をかぶるというよりも、腹の上に石ころが乗っかっているというような雰囲気にしかならないので、これは断念した。また歩行風呂は砂利を敷き詰めてある足湯であるが、私のように内臓ボロボロの人間は、足の裏が痛すぎてとても歩けないというわけでこれも早々に撤退である。

 入浴が終わって部屋でボーっとしていると、しばらくして夕食が運ばれてきた。食事としては典型的な旅館の夕食。味はまずまずであるのだが、どうにも個性に乏しいのが損をしている。

 腹が膨れると眠気が襲ってくる。しばらく横になってうつらうつらしていると、夕食の片付けと布団を敷きに旅館の人がやってきた。そこで私は寝る前に本館の風呂のほうに入浴に行く。

 本館は泡風呂とアロエ風呂が屋内で、それに露天風呂が隣接している構造。こちらの風呂は新館と違って熱すぎるということはなかった。露天風呂で空を眺めながらのんびりしていると、ようやく気分が落ち着いてきた。カルシウム濃度が高いという温泉の湯は、体につくとベタベタする感じで、舐めると苦味としょっぱみがある。体を温めるには最適な風呂だろう。しかしそれにしてもここの施設は老人比率が高い。回りを見渡しても入浴客は高齢者ばかりである。確かに若者がやって来るには、あまりに田舎過ぎるということもある。実は私もここに着てから暇をもてあましている。回りに出かけるところはないし、ここの宿はインターネットが出来ないし・・・。まだ温泉宿で温泉三昧でゆっくりというところまでは、私は枯れきっていないようである。

 温泉から上がると再び眠気が襲ってきた。こうしてこの夜は更けていったのである。


3日目 福井周回


 翌朝は7時頃に起床すると、まずは露天風呂に出かけて朝風呂。昨日も感じたが、宿での朝風呂というのが旅行での一番の贅沢に思えてくる。なんかだんだん小原庄助さんになってきそうな心情。

 8時頃に食堂で朝食を摂ると、さっさと荷物をまとめてチェックアウトする。また今日も予定が目白押しなのである。

 まずはここから車で30分ほどという東尋坊にでかけることにする。全国的にも知られた断崖の名所である。なお東尋坊とはかつてこのあたりで暴虐をつくしていた悪僧の名前で、計略によって彼をここの断崖から突き落としたことにちなんで命名されているとか。しかし突き落として殺した人物にちなんで地名をつけるって・・・・。どうもその命名のセンスにはついていけない。云わば松岡大臣が自殺した議員会館に松岡会館と命名するようなものか? ありえない。

 海沿いの道を走ることしばし、ようやく東尋坊に到着、手前の土産物屋の駐車場に車を止めて、まずは東尋坊タワーなるものに上ってみることにする。

 タワーからは見渡せるのは絶景である。手前には日本海の水平線が見え、南にははるか敦賀が見えているようである。ただここから見下ろしたのでは肝心の東尋坊は全くといってよいほど見えない。少なくとも断崖絶壁というイメージは皆無である。

 そこでタワーを降りて東尋坊にもっと近づくことにする。しかしここで絶句したのは辺りが観光地化していて土産物屋がひしめいていること。狭い道路の両脇に土産物屋が林立してにぎやかなことこのうえない。「ここは田舎の竹下通りか?」思わずため息が出る。どうも観光地として有名になると風情がなくなってしまうようである。

 竹下通りを通り抜けると、断崖の縁が見えてくる。ここに来るとタワーから見下ろしていたよりは断崖絶壁のイメージが分かるようになる。しかしやはり上から見下ろしていたのではいまいちだ。それに高所恐怖症の私としては、断崖の端まで行って下を覗く気には到底なれない。そこであたりを見回すと遊覧船の案内が出ている。やっぱりこの手は下から見上げるに限るだろうと考える。

上から見るとこんな感じ

 船着場は石段をかなり降りた先にあった。さすがにここに来ると先ほどの絶壁が見上げるような感じであり、ようやく「火曜サスペンス劇場」のテーマ音楽が頭の中に流れてくるようになる。日本中の断崖を巡ったという断崖評論家の片平なぎさ氏や、オプションの船越英一氏が似合いそうな雰囲気である。

下からだとこうなる

 遊覧船は80人乗りの小型船。数隻の遊覧船が入れ替わり立ち代りでひっきりなしに出航している。30分のクルーズで1100円。これで東尋坊を海から眺めることが出来るという仕掛けである。船長によると「今日は全然風がない」とのことなのだが、さすがに日本海、意外と船が揺れる。これでは「荒れている」という日なら、私は船酔い確実である。

 海から眺める東尋坊は奇岩の連続である。日本海の荒波による侵食の激しさを物語る地形である。また途中で、もっとも断崖が高いという大池も通過する。ここなど転落したらひとたまりもなさそうである。大体午後10時35分過ぎになると、この上に断崖評論家ご一行様が到着し、犯人による事件の真相についての長説明が始まるのだろう。もうすぐ「聖母たちのララバイ」が聞こえてきそうだ。

午後10時35分頃の光景

 ちなみに船長からは、この断崖を見学に行く時にはくれぐれも転落しないようにという注意と、命の電話の所在地についての紹介があった。しかしこれだけ観光地化しているのを見て、それでもここから飛び込もうなんて気になるだろうか? あまりの光景にあほらしくなって、死ぬのを思いとどまってくれたらそれはそれでめでたいのだが。

 それにしても今日も暑い。これでは断崖から転落しなくても、熱中症で死んでしまいそうだ。船から降りると土産物屋に駆け込み、宇治金時で命をつなぐ。氷が灼熱した体に染みこむ。ようやく生き返ると次の目的地を目指す。車で30分以上かけて、福井市中心部を目指す。


「あそびにおいでよ!動物ファンタジーへ」福井県立美術館で8/26まで

 夏休みになると絵本原画展がとにかく多くなるが、本展もその一環。ヨーロッパの絵本作家ヨゼフ・ウィルコンの作品を展示したもの。また彼は絵本作家であるだけでなく、彫刻家でもあるとのことで、自然の木片などを使用した動物作品も併せて展示されている。

 絵も彫刻も共になんとなく懐かしさを感じさせるものである。特に彫刻の方は、子供の頃にいじっていた野山の木々を思い出させる。野山で遊ぶ経験のない現代の子供にはかえってこれは新鮮なのかもしれない。


 なお常設展においては狩野芳崖の「伏龍羅漢図」が印象に残った。ちなみに本日は「家庭の日」とかで、常設展は無料開放になっていた模様。にしては、あまり客は来ていなかったようであるのがさびしい。

 美術館を出た頃にはちょうど昼時となっていた。今日の昼食にはそばを食べることにした。選んだのは「佐佳枝亭本店」。通信販売も行っている越前そばの店である。注文したのは天ざるそば。

 ここのそばはやや太めで、歯ごたえがしっかりしているのが特徴。これが越前そばに共通する特徴なのか、この店に固有のものかまでは分からないが、なかなかに私好み。暑さでバテ気味の私にも、スルスルと食べられる。やはり3日目の昼食にはそばを想定していたのは正解だった。我ながら見事なプランニングである。

 とりあえず腹ごしらえが終わったところで次の目的地に移動。今度は福井市からかなり離れた山の中である。1時間弱を要して目的地に到着する。


福井県立恐竜博物館

 福井では恐竜の化石が種々発見されているとのことで、それを観光開発に利用することを考えて設立された博物館のようである。なお私が訪問した日には常設展が入場無料とのことで、かなり多くの子供連れで混雑していた。

 かなり広い展示スペース内に、これでもかとばかりに恐竜の骨格標本や模型などを並べてあり、子供などが喜ぶことは間違いない。また大人でも十分に楽しめるし勉強にもなる展示が盛りだくさんである。私は疲労とあまりの子供の多さにじっくり回る気はしなかったが、なかなかに見応えのある施設なので、訪問しても損はない。


 恐竜博物館を出た頃に、突然に雨がパラパラと落ち始めた。またここから福井市に向けてとんぼ返りしたのだが、途中でかなり激しい雨に出くわすこととなった。今回の遠征中は常に灼熱地獄で苦しめられたのだが、遠征終盤になってようやく涼しくなってきたようである。

 福井市に戻るとこれが最後の訪問地となる。


「わたしが選んだちひろ展」福井市美術館で8/19まで

 絵の具のにじみを利用した独特のタッチの絵画で知られるのがいわさきちひろであるが、絵本などによく掲載された彼女の作品を集めた展覧会が本展。ある年代以上の者には彼女の絵柄は強烈な懐かしさを感じさせるという効果がある。

 私は正直なところ彼女の絵はあまり好きではないのだが、日本人受けする絵であることはよく分かる。会場も女性が中心にかなり混雑しており、その人気の高さがうかがえる。また展覧会にしては物販部門がかなり充実していたというのも特徴的だった。


 ちなみに福井市美術館の次回展は「安彦良和原画展」とのこと。まるで科特隊本部のようなシルエットの建物といい、なんとなく奇妙な美術館である。

 以上で私の北陸遠征の全日程が終了。既に体力の限界に近づきつつあるので、限界を超えてしまう前に帰途につくことにする。ちなみに警戒していたUターンラッシュに米原をすぎたところで遭遇、大幅に時間と体力を浪費することになったが、おおむね計画通りに帰宅することが出来た。が、帰宅するなりぐったりと倒れ込んでしまい、しばらくは起きあがる気力も出なかった。

  それにしても今回の教訓は「夏の遠征は熱中症に注意」という一点に尽きる。熱中症にこそならなかったが、炎天下の行軍で体力を消耗しすぎて、それが遠征後半における行動力の大幅減退につながってしまった。特に金沢においては回り残したところが多々あり、大いに心残りがある。金沢のホテルも気に入ったことだし、宿題も残ったということで、これはいずれリターンマッチをしないといけないだろう。なお今度は真夏は避けるのは言うまでもないことだが・・・。

 で、今回の遠征を振り返ってみるに、美術館で印象に残ったのは21世紀美術館の巨大さだけで、後はほとんど記憶に残っていない。むしろ記憶に残っているのは食べ物と温泉だけ・・・これでは単なる観光旅行ではないか。なんかだんだん当初の目的から乖離して行っているような気が・・・まあいいか。

 

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