青春18切符の旅 名古屋編2
いよいよ夏の青春18シーズンも終わりを迎えることになった。この夏の最後をしめる遠征は、考えた末に名古屋リターンマッチである。やはり名古屋ぐらいの距離になると、交通費を考えると青春18シーズンでないと辛い。となると次の機会は今年の冬。そう考えると、この秋をにらんで今のうちに名古屋を押さえておく必要があろうという判断である。
また前回の岐阜・名古屋遠征の時の宿題も残っている。前回の時は名古屋から関西本線にのり、柘植で草津線に乗り換えたのだが、やはり関西線全線走破をしたいという思いは募っていた。それも合わせての遠征である。
日程は当初は週末の土曜日を想定していた。しかしこの遠征は鉄道乗車時間の比較的長いハードなものになりそうだ。それに現在少々夏バテ気味である。これらの状況を勘案した結果、直前で急遽金曜日に予定を変更した。しかしこれが後に諸々のところに響いてくることになるのだった・・・。
当日は早朝に大阪を出発、奈良まで移動するとそこで乗り換えて加茂へ。ここからはいよいよ非電化地域になる。
車両はディーゼルワンマンカーを二両つなげた即席編成。甲高いディーゼルサウンドを響かせると列車は早速山道に突入していく。非常に起伏が激しい上に結構列車が揺れる。窓の外は深い山。私の期待通りに楽しませてくれる沿線風景である。
ただ単線の悲しさ、行き違いでの待ち時間が長い。伊賀上野では停車時間が14分、柘植では13分、そのために必要以上に時間がかかってしまうのである。これがこの路線の最大の難点か。ちなみに沿線で「関西本線の電化複線化を」という看板を見かけた。確かにせめて複線化でも出来れば事情は変わるだろうし、電化されて大阪から亀山までの直通快速でも導入されれば世界も変わるだろう。しかし採算性を考えると空しい願いである。近鉄という強力な競争相手を考えた場合、勝ち目はおよそないだろう。
なお列車の中を見回していると、明日は工事のために運休の列車が出るとの表示があった。もし当初の予定通りに明日に出かけていると、これは痛い目にあっていたかもしれなかった。思わず「ラッキー」と呟く。
柘植で草津線の列車と待ち合わせ。ここから結構の人数が乗ってくる。それなりに乗客はいるようである。ここからは前回にたどったルートを逆回り。亀山で乗り換えると、突然に市街地めいた中を走ることになる。亀山までの山の風景と対照的である。この頃になると私も沿線に対する興味が減少してきて、朝の出発が早かったこともあってうつらうつらとし始める。
半分居眠りの状態で列車は終点の名古屋に到着する。後は当初の予定通りに金山まで移動する。「順調、順調」私は上機嫌で目的地の名古屋ボストン美術館へ。展覧会紹介のポスターが貼ってある・・・のは良いが、「準備中」という文字がそこに書いてある・・・一瞬意味が飲み込めない。
「しまったぁぁぁ!」思わず美術館の前でマトリックスをしてしまう私。そう、当初の予定では私の遠征は「レンブラント版画展」の「初日」だったはずなのである。しかし直前になって予定を早めたため、私の遠征日は初日の前日になってしまったという次第。情けないことに、今の今までそのことに全く気づいていなかったのである。こうして私の綿密なプランは、最初からガラガラと崩れてしまうことになった。
「私の遠征は1つの目的地を失った。これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ! 我が財力は非常に乏しいにもかかわらず、今日まで遠征し続けて来たのは何故か! それは私の遠征目的が正しいからだ! 私の掲げる美術館普及のための遠征を神が見捨てるわけはない! 私の目的地、諸君らが愛してくれたボストン美術館は消えた。何故だ!」
「ぼんやりだからさ・・・・」
想定外の事態にしばし呆然としていた私であるが、悲しみを怒りに変えて、再び立ち上がるのであった。ジーク・ムゼーウム!
それにしてもなんたる不覚。己の間抜けさに呆れる次第。しかも気が抜けてしまったら急に腹が減ってきた。そう言えば今朝は早朝からの出発で朝食抜きである。まずは昼食にすることにした。
前回は名古屋名物ひつまぶしを食べた。となると後はやはり名古屋コーチンか。と言うわけで今回訪れたのは栄の「とり要」。名古屋コーチンを用いた鍋料理などの店である。
しかしここでまたもトラブル発生。11時に訪れたら開店は11時30分からとの話。どうも事前の調査の情報が間違っていたようである。当初の予定では名古屋ボストン美術館に寄ってからここに来るはずだったので、到着は12時前頃で、ちょうどのはずだったのだが・・・。計画が狂ってしまったツケがここにも来てしまった。やむなく付近で30分ほどつぶすことにする。
30分後、ようやく入店する。私が注文したのは昼食用のコースである「名古屋コーチンみそなべ定食」である。
赤みそを用いた鍋が意外にあっさりしている。またかなり煮込んでいるにも関わらず、鶏肉がパサパサしないのは名古屋コーチンたる所以か。なお実は一番美味だったのは、煮込んだ後の出汁。赤味噌の中にコーチンの味が染み出しており絶品。そもそも赤味噌はうまみの強いみそであるので、その相乗作用であろうか。思わず全部飲み干してしまった。
一息ついたところで、計画の再度練り直しである。調査したところ、幸いにも名古屋ボストン美術館以外は根本的な変更の必要はなさそうな気配である。とりあえずは胸をなで下ろす。どうやら「関西本線に乗って鳥鍋を食べに来た」だけの遠征で終わる心配はなくなった・・・。
まずはこの最寄りの行きつけの美術館へと立ち寄る
「サイクルとリサイクル」愛知県立美術館で11/4までサイクルとリサイクルをテーマにして、複数の現代美術家の作品を併せて展示した企画。例えばサイクルという点では光と影をテーマにした作品や、水の流れを使用した作品。リサイクルという点では、図鑑の絵図を使用した作品など種々様々。
とは言うものの、現代美術だけにテーマ性はそもそも薄い。実際には一発ネタ芸人達が、自分の得意ネタを持ち寄っただけというのが実態に近いか。現代においては、どういうものが「アート」を名乗っているかを理解するには良いが、それに感銘を受けるかどうかはその人次第である。ちなみに私の場合は、正直どうでも良い作品ばかりだったんだが。
前日から台風がやって来ていたので天候を心配していたのだが、それが嘘のような好天である。しかも台風が熱気を連れてきたのかやけに暑い。この時点で結構へばってきた。こういう時には宇治金時ドーピングに限る・・・というわけで、とりあえず手近な喫茶店に飛び込み、宇治金時で一息つく。
氷の冷たさで生き返ると地下鉄とリニモを乗り継いで次の目的地に向かう。なおリニモはあの愛知万博の時に建設されたリニアモーターカーとのことである。大阪のニュートラムや神戸のポートライナーなどの新交通システムと比較すると、確かにタイヤのゴロゴロという感覚がないような気がするのと、加減速がやや滑らかなようには思われるが、普通に乗る分には、正直なところそう決定的な違いは感じられなかった。このシステムは建設コストが結構かかるということを聞いているが、コストに見合ったメリットはあるんだろうか?
「文人画の世界 筆と心の一体感 加藤不譲画」名都美術館で9/16まで加藤不譲は愛知県出身の画家で、どちらか言えば即興的な画を得意にしているようである。本展の展示作も、大胆にして自由な筆遣いの作品が多い。正直なところ、あまりに大胆なために笑ってしまいそうな作品もある。特に強烈に印象に残ったのは「虎図」。ユーモラスともグロテスクとも見える奇妙に印象深い作品である。
この画家についてはいかに表現するべきなのだろうか。正直なところ私の頭に浮かんだ言葉は、あまりに俗で申し訳ないのだが「へたうま」という言葉。一見すると下手にも思えるのだが、よく見ているとどうしてどうしてなかなか描けるもんじゃないんじゃないんじゃないかという気もする。こういうのが自由闊達という心境なんだろうか。
さてここまで来たところでまだ時間は残っている。実は当初のプランではこの後の候補として2カ所ほど用意していたのだが、疲れが予想以上に溜まって来ていることもあり、どうもあまり気乗りしない。どうせ今回は予定がガタガタになって行き当たりばったりになってしまっている遠征である。趣の変わったところに出向くことにする。
トヨタ博物館その名の通り自動車を集めた博物館である。欧米車から日本車など、懐かしの車が100台以上展示されている(コレクションは400台を超えるとか)。博物館としては当然のことであるが、コレクションはトヨタ車に限らず、日産にホンダなど各メーカーに渡っている。
私は特別にカーマニアではないが、これはカーマニアなら感涙ものだろう。かなり珍しい(と思われる)自動車がこれでもかとばかりに展示されていて、その物量には圧倒される。
カーマニアでない私としては、実は一番の感涙ものは昔懐かしい三輪トラックである。思わず古き良き時代にタイムトリップして感慨ひとしお。また新館の車の歴史を振り返るコーナーで登場した大八車には爆笑したが。
昔懐かしき三輪トラック
美術館遠征という趣旨とはずれているので今まで行ったことがなかったのだが、カーマニアではない私でもなかなか楽しめた。ただやはり「トヨタ」博物館だけあって、例によって車優遇。リニモから歩いていくよりも、車で行った方がアクセスは便利なようである。徒歩で行くような不心得者は、結構グルグルと歩き回らされる作りになっている。
以上でとうとう力尽きてしまった。体力も気力限界になったので、まだ若干早めではあるが帰途につくことにした。帰りはオーソドックスに東海道線である。やっぱり乗り比べると関西本線は遅すぎる・・・このままだとあちらは永久に日陰者だろうな・・・。
それにしても今回はあり得ない凡ミスをしてしまった。なんとか「関西本線に乗って鳥鍋を食べに行った」だけの遠征になることだけは避けたが、それでも今ひとつ精彩を欠く遠征になってしまったことは否定できない。次回からは計画に当たってはより細心の注意を払うようにしないと・・・。
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